いばらき産保ニュース 第50号

発行日:2009/11/13
ホームページ:https://ibarakis.johas.go.jp/
発  行:独立行政法人 労働者健康福祉機構
茨城産業保健推進センター 所長 小林 敏郎

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コラム

「最近の職場環境とストレス」

茨城産業保健推進センター所長 小林 敏郎

昨年秋のアメリカ発のサブプライムローン問題に端を発した経済不況は、 またたく間に世界中に飛び火し世界の経済状況を一変させてしまいました。 日本においてもバブル経済が崩壊して、小泉首相がリーダーシップ(?)を 如何なく発揮して財政構造改革が実行され十分なセーフティーネットが無いために 社会の二極化が出現してしまいました。ここでは主として産業現場に視点をおいて ストレスフルな職場環境の現状や問題点およびそこに係る就労者について私見も 交じえ話をしてみたいと思います。

図1に示されます様に現在の職場は終身雇用や年功序列制度はとうの昔に終焉をむかえて、 成果主義、能率、効率第一でありかつ世界を相手にスピード化を求められています。 そのために深夜交代勤務などの就業形態や雇用の多様な態様が採用されています。 ここで持筆すべきはいわゆる非正規労働者が多用されてきていることです。 総務省の「労働力調査」の2007年では33.5%を占めるに至っておりました。 特に派遣労働者の雇用問題はご存じの通り、企業の雇用の調整弁と位置づけられ、 年金制度、社会保険、雇用保険も不備な上に再雇用の斡旋や技術修得の機会がなく 他職種への転出も出来ず契約の打ち切りや雇用止めとなってしまっています。 一方で正規社員については必要以上の雇用の削減を断行したあおりでかなり 過重な役割の負担を強いられております。 この様にしてみると正規、非正規を問わず身体的にも精神的両面において負荷が 増大しているのが現状です。

図2には実際の労働態様や生活様式の変化による様々な疾患が出現するようになりました。 即ち、農業や漁業のように初めから終わりまで自らが係わって生産したり魚貝類を獲得 することによって生じる「生産の喜び」を体感する事ができます。一方、第二次、第三次 (サービス業等)産業に移行するとなると自分が車の車輪の一部にしかならず仕事への 安定感、達成感がややもすると得られにくいという感覚低下に陥ってしまいます。 そのため忙しさに追われてストレスに起因する心身症、うつ病等のメンタルヘルス不調や 生活習慣病の発症につながってゆきます。と同時に作業関連疾患と言われている腰痛症、 頚肩腕症候群等の筋骨格系疾患、長時間拘束されているパソコンをはじめとした VDT(Visual Display Terminal)作業の視力低下やドライアイ等の視力障害そして 運動不足、過栄養によって肥満を上流にしたメタボリック症候群、糖尿病、高血圧などの 生活習慣病等様々な心身の疾患が生じる結果となっています。 特に全身労働よりも局所やメンタル労働にその比率が大きくなっています。 ところでメタボリック症候群に関しては平成20年4月より特定健康診査、 特定保健指導が高齢者医療確保法の一貫として実施されている所ですが、 産業保健においてもそれに合わせて労働安全衛生法を改正し健診項目の見直しを行いました。 厚生労働省の2004年国民健康・栄養調査のデータによると40~74歳では有病者、 予備軍合わせて約2000万人となり男性の2人に1人、女性の5人に1人ということになっています。 腹囲測定や肥満が必須条件は疑問符が付きますが、 個人的な印象としては現場での一層の業務量増加に伴う不規則な食生活の低下、 運動量の低下やストレスにより40歳以下の肥満の割合が高くなっており特定保健指導のみならず 40歳以下の若い方々への産業医、保健指導による健診後の「保健指導」を地道に実施してが大切である考えています。 又メタボリック症候群、生活習慣病の更なる悪化を防ぐためにもストレスの軽減策を講じる必要があると思います。 次にワーク・ライフバランス(仕事と生活の調和)ということについて考えてみたいと思います。

図3 平成18年4月より改正労働安全衛生法が施行され過重労働の健康障害防止対策の 一貫として長時間労働者への医師の面接指導が義務化されました。1000人規模の大企業 の事業現場においては90%を越す実施率を示していますが中小企業になる程低下し50%前後となっています。 50人未満においては地域産業保健センターの登録産業医が鋭意努力しております。 この長時間労働の弊害はどのようなものがあるでしょうか。

図4に示すように1日のライフスケジュールを絞り込むと最終的には睡眠時間を削ることとなり 心身への悪影響は計り知れないものがあると思います。生活習慣病の増患は当然としてもうつ病 等メンタルヘルス不調も同時に出現します。睡眠時間の関係の他には、家族関係の希薄化、 少子化、様々な地域、学校等のボランティア参加や育児、老親への介護等その時ならではの 大切な時間が持てないという不満が残ると思います。 欧州のEU労働時間指令というものをご紹介したいと思います。記憶されているかも知れませんが 平成20年春先に観光バスの運転手が居眠りをして人身事故を起こす事がありました。 又一部報道では長距離トラックドライバーの車中の長期宿泊、仕事は携帯で何でも 運送します等の過酷な労働実態が明らかにされました。
ところでEU労働指令とは
1. 1日の休息時間は最低連続11時間(勤務終了と次の勤務開始との間の時間)。
2. 週労働時間は48時間(時間外労働を含む)。
3. 年次有給休暇は最低4労働週を与える。
というものです。昨今医師の長時間労働が叫ばれ過労死、過労自殺等が起き労災認定を受けています。 少しでも労働環境を改善しなければ医療の崩壊は必至です。連続する長時間労働はアルコール飲酒の運転 と同じと言われており医療事故防止のためにも適切な労働時間の遵守のための方策が待たれる所です。

図5、図6は様々な現状のストレス要因を表しています。前述したように競争、効率、 スピード等を要求される中にあって年代を問わずストレス負荷存在しています。 ここ数年60%を越す労働者が何らかの悩みや不安、ストレスを抱えているとされ、 心身症、うつ病、神経症、統合失調症、依存症等各種の精神病患を職場から発症しています。 又現代型うつや非定型うつと言われ対応に苦慮するケースも見られつつあり 精神科主治医との緊密な連携が欠かせない所です。更に精神科疾患の職場復帰対策も重要な問題であり、喫緊な課題です。

以上述べましたようにこの世界経済不況下の日本の産業現場の職場においては 様々なストレスのかかる過重な労働態様が迫られており、それによって起こる ストレス性疾患を未然に防止すると同時により快適な職場環境を形成すべく 産業医を含めて産業保健スタッフ等の役割はますます大切になってきています。 以上

(※本原稿は茨城県医師会報(平成21年11月号)に掲載されたものを転載いたしました。本文で引用している図は掲載できませんので、ぜひ、ホームページで全文をご覧下さい。)

・詳しくは↓
https://ibarakis.johas.go.jp/archives/3476

新着情報

「恐怖の記憶」消す仕組み解明・・・PTSD治療にも  

脳が短期の記憶をとどめる部分では、神経細胞を次々に作り出すことで、 恐怖などの記憶を消し去っていることを、富山大学の井ノ口馨教授らが動物実験で突き止めた。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの治療に繋がる成果だ。 13日発行の米科学誌「セル」に発表する。(11月13日付け読売新聞)

男性の喫煙率、過去最低

喫煙習慣がある人の割合は、男性では36.8%だったことが、 2008年の厚生労働省の国民健康・栄養調査で9日分かった。 調査を始めた1986年以来、最も低い数値。女性の喫煙率も過去最低レベルの9.1%だった。

たばこ増税、1箱600円?税調、引き上げ幅で難航も

政府税制調査会(会長・藤井裕久財務相)は6日、会合を開き、 平成22年度の税制改正要望について、各省庁からの意見聴取を行った。 焦点のたばこ増税では、1箱600円となる大幅増税に踏み切ったあと、 さらに段階的に課税強化する案が浮上した。ただ、増税幅をめぐっては 出席した副大臣らの間で温度差が際立った。鳩山由紀夫首相は税調にたばこ税 見直しを指示しているが、改正案とりまとめの年末に向け、調整作業は難航しそうだ。

これから受講できるセミナー案内(無料)

※ 締切直前のセミナーについてはお早めにお申込ください。先着順になります。
※ 衛生管理者、産業看護職対象のセミナーも多く計画しています。

年末が近づき大変お忙しいと思いますが、レベルアップのため、 新しい情報を入手するためにも、ぜひ、ご参加ください。

  • 11月17日(火) 午後2時~午後4時30分 県南生涯学習センター(土浦市)
    「労働衛生、健康管理担当者の職務について」
    講師:武田 繁夫
  • 11月18日(水) 午後2時~午後3時30分 住友生命水戸ビル会議室11階
    「独り職場の駆け出し看護職勉強会(Ⅱ)~テーマ~自前で行うメンタルヘルス研修」
    講師:起 由美、河島 美枝子
  • 11月26日(木) 午後6時30分~午後8時30分 住友生命水戸ビル会議室11階
    「精神障害等の労災認定のしくみ~(改正)心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について~」
     講師:飯塚 克己
    ※日医認定(基礎・後期2、生涯・更新2)申請
  • 12月2日(水) 午後2時~午後4時00分 住友生命水戸ビル会議室11階
    「管理職のためのメンタルヘルス・マネジメントセミナー(Ⅳ)~職場のメンタルヘルス対策の進め方~ 
    講師:小川 邦治
  • 12月5日(土) 午後1時30分~午後5時30分 茨城県医師会4階会議室
    「メンタルヘルス対策及び過重労働による健康障害防止対策に係る研修」 
    講師:友常 祐介、西宮 常代
    ※日医認定(基礎・後期3.5、生涯・専門3.5)申請
  • 12月5日(土) 午後4時~午後7時30分 茨城県医師会3階会議室
    「精神科医等に対する産業保健に関する研修」 
    講師:中谷 敦、山村 邦男
    ※日医認定(基礎・後期3、生涯・専門3)申請
  • 12月7日(月) 午後2時40分~午後4時 中央ビル8階会議室(水戸市泉町2丁目3-2)
    「メンタルヘルス・ケースカンファレンス」
    講師:山村 邦男
  • 12月18日(金) 午後2時~午後4時30分 住友生命水戸ビル会議室11階
    「衛生管理者等スキルアップ研修会(Ⅱ)~リスクアセスメントの進め方~」
    講師:伊藤 進一

【注】「日医認定」とあるのは、日本医師会認定産業医制度の単位認定研修(生涯研修)です。
「実力アップ」とあるのは、日本産業衛生学会産業看護職継続教育実力アップコース認定(基礎コース修了者)です。申請中、又は申請予定も含みます。
また、「予定」とあるのは、変更されることがあります。

メンタルヘルス対策支援センターの利用案内

「メンタルヘルス対策支援センター」では、対面、電話、ファックス、 メールによりメンタルヘルス不調の予防から職場復帰までのメンタルヘルス全般 についての相談、問い合わせに応じています。
現在、3名のメンタルヘルス対策促進員が 事業場を訪問して制度の周知、助言を行っています。
メンタルヘルス不調者の対応をどうしたらよいか、社内スタッフ・従業員への 教育・研修をどうしたら良いか、職場復帰支援プログラムはどのように作れば良いのかなど、 メンタルヘルス全般についてのご相談に応じています。費用は無料です。

コラム水戸南町だより

▼当センターの小林所長の「最近の職場環境とストレス」という 原稿が茨城県医師会報11月号に掲載されました。メールマガジンには 図は掲載できませんでしたので、ぜひ、当センターのホームページで全文をご覧頂きたいと思います。

▼来年度の研修計画を準備しているところです。 各セミナーでいただいたアンケートなどを参考にテーマ、研修の時間帯、場所など検討しています。 来年度、ぜひ、このようなセミナーを企画して欲しいという要望がありましたらメールで結構ですので、 センターまでお知らせください。

▼11月から12月にかけて数多くのセミナーを開催する予定になっています。 センターの情報誌が廃刊となり、メールマガジンが重要な情報伝達の手段ですので、 今月は月半ばでもメールマガジンを発行をすることにしました。

▼11月には私のメイン行事の1つである「つくばマラソン」があります。今シーズン最初のフルマラソンです。 レースまであと10日程、体調を整えながら、「ドキドキ」しながら毎日を過ごしています。 良い結果が出れば?次回のコラムでご報告ができるかもしれませんが・・・


次回の第51号は、平成21年11月下旬配信予定です。
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