主任研究者 茨城産業保健推進センター
産業保健相談員 松崎 一葉
共同研究者 同 上 久保田 芳晴、島田 理
笹原 信一朗
筑波大学社会医学系環境保健学 服部 訓典、立川 秀樹、吉野 聡
※役職等は平成14年度当時

1、目 的

本研究は、平成10年度調査研究以来、我々が取り組んできた研究成果をふまえた上でデザインされている。平成11年度調査結果から、茨城県内における小規模事業所の産業保健活動への取り組みの状況や意識が明らかにされてきた。事業所の多くは、労働安全衛生法の知識の欠如、経費負担の問題などが原因となって、安全衛生に積極的に取り組めない状況であった。平成12,13年度においては、メールマガジンの配信や独自のホームページの立ち上げを実施して、産業保健情報の発信と情報源充実に努めてきたが、それらだけでは、アウトカムとして産業保健活動の向上に関する十分な効果は得られなかった。
本年度は、これらの一連の結果を基に、地域産業保健センターを中心とした従来型の支援活動とIT活用型の産業保健支援活動を有機的に連携させた統合モデルの構築を図る。そのために、地域特性を把握し、コーディネーターを中心とする人的支援の活用を図るべく本県調査研究を実施した。

2、対象と方法

地域特性を把握する為、統計年報(平成13年)のデータを元に県内9ヶ所の地域センター各管轄事業場別に「労災保険適応事業場数・労災保険適応労働人口」、「労災発生率・有害業務率」のデータを利用してクラスター分析を行った。また、聞き取り調査による小規模事業場の問題把握のためのアンケート調査を、各センター5件ずつ計45事業場に対して実施した。

3、結果と考察

クラスター分析の結果によると、以下の地域特性が示唆された。

  1. 事業場数自体は少ないが労災発生率・有害業務率が高く産業保健的に遅れている地域
  2. 古くから工業団地などが多く、系列企業の製造工場などが多く、事業場数が多く、有害業務率も高いが、労災発生率が少なく、産業保健的に進んでいる地域
  3. 都市部ではオフィスワークが多く、事業場数多いが、労災発生率、有害業務率は低く、従来からの産業保健に関する問題は少ないと思われるが、ホワイトカラーワーカーを中心としたメンタルヘルス問題など最近の産業保健問題が潜在していると思われる地域。

  • 訪問ヒアリング調査の回収率は55.6%でありコーディネーターが個別に回ったこともあり、平成11年度(22.4%)と比較して極めて高かった。回答内容としては、健康診断実施や健康診断後の事後措置実施の義務に対する認知度は平成11年度と同様、健診実施については約8割、事後措置についても約6割の事業場において認知されていた。また「健康管理が第一と考えて、産業保健活動を実施している」という考えが約4割、「従業員が病気にかからないよう、職場として予防活動が重要だ」という回答約半数であり平成11年度と同様事業主の健康管理に対する意識が低いという結果であった。
  • 一方、「産業保健推進センターの存在を知っているか」、「地域産業保健センターを利用したことがありますか」、「地域産業保健センターを利用した話を聞いたことがありますか」との問いに対しては、各々12%、12%、8.0%と平成11年度と比較して明らかに認知度が低い結果となった。
  • メンタルヘルスに関しては、「メンタルヘルス相談体制の整備」との問いには8.0%と平成11年度(7.1%)同様低い結果であった。また、「メンタルヘルス問題が発生したらまずどこへ相談しますか」との問いに対しては、「近隣の病医院」が48%と最も多く、「地域産業保健センター」と答えた事業所は4.0%と平成11年度と同様低かった。そして、「メンタルヘルス対策については」との問いに対しては「積極的に発生予防に取り組みたい」16%、「個人の問題なので事務所としてはあまり関わりたくない」32%と、共に平成11年度と比較して低い結果であった。

以上の結果より、IT資源等の情報発信のみでは不十分であり、人的資源とIT資源との有機的支援が大切であることがわかった。今後、これらの調査研究結果をふまえ、小規模事業場に対する啓発活動を人的支援とIT資源との有機的支援をもって、有効に行うことが重要であり、特にメンタルヘルスに関しての啓発活動については今後課題が多いことが明らかとなった。

調査研究