1 はじめに

近年、第三次産業の発達に伴う業務の質的変化、成果主義の導入そして経済的要因の影響から、労働者のメンタルへルスを取り巻く状況は悪化し、事業場におけるメンタル不調者の増加が社会的問題として取り上げられている。 しかし多くの事業場では精神科を専門としない産業医を選任していることが多く、精神科を専門としない産業医が精神科医に紹介状を作成することが多い。この際、紹介状に記載方法や記載すべき情報についての統一された見解がないため、精神科主治医が労働者本人や職場の状況を適切に把握することができず、その後の対応が円滑に進まないといった事例も散見される。 そこで、心の健康問題を抱えた労働者に対応する際に主治医と産業医間で意識がどのように異なるか、また労働者個人の状況だけでなく、職場の状況も含めて特にどのような情報が必要かを明らかにし、心の健康問題を抱える労働者に対応する精神科医、産業医の一助となるための調査研究を実施した。

2 調査方法

調査1:量的調査
調査対象
①心の健康問題を抱える労働者の精神科主治医となる精神科医(茨城県医師会に精神科、心療内科、精神神経科として会員登録のある医師)142人
②事業場で働く産業医(茨城産業保健推進センター利用歴のある事業場の産業医)795人
方法
郵送にてアンケート用紙を配布し本調査研究に同意の得られた産業医、精神科医より回収した。
調査2:質的調査
方法
アンケートの自由記載欄の回答及び聴き取りによる

3 結果と考察

<結果>
回収率は産業医22.9%(795人中182人)、精神科医29.6%(142人中42人)であった。
心の健康問題の原因について。産業医・精神科医ともに「人間関係」を最も多く(84.8%、85.7%)回答した(表1)。心の健康問題を抱えている年代は産業医は40代(50.0%)が最も多く、精神科医は30代(59.5%)が最も多いと回答した。心の健康問題を抱える労働者の増減は産業医・精神科医ともに増えている(74.4%、81.0%)と回答した。心の健康問題を抱える労働者の今後の増減は産業医・精神科医ともに増える(87.6%、83.3%)と回答した。心の健康問題を抱える労働者への対応の負担は産業医・精神科医ともに負担になっていない(58.1%、68.3%)と回答した。心の健康問題を抱える労働者への今後の対応の負担は産業医・精神科医ともに負担が増える(86.9%、83.3%)と回答した。
主治医-産業医間のやり取りについて。初診時の紹介状には、産業医は症状を最も多く記載する(88.8%)が、精神科医は職場で問題となったエピソードを期待する(90.0%)と回答した(表2)。初診時の紹介状の返信には、精神科医は診断名を記載し(92.7%)、産業医は診断名を期待する(88.0%)と回答した(表3)。職場復帰時の判断材料は、産業医は主治医の復職可能の診断とし(87.6%)、精神科医は生活リズムの安定とした(92.7%)。職場復帰時の情報提供書は産業医は就業上必要な配慮を期待し(88.0%)、精神科医は就業上必要な配慮・就業の可否を記載する(89.7%)と回答した。
主治医-産業医間のコミュニケーションについて。産業医・精神科医ともに必要ありと回答した(96.6%、92.5%)(表4)が、現状でコミュニケーションをとっている産業医は50.9%であり、精神科医は60.0%であった。

産業医・精神科医間に意識に大きな差はないことが明らかになった。しかし、実際の対応については、産業医、精神科医の立場の違いから相互に求めている情報が提供できていない可能性も考えられた。

本調査において、以上の結果を勘案し、紹介状の雛形を作成した。事業場・産業保健スタッフへフィードバックが行われるものと考えられる。

表1

表2

表3

表4

報告書全文・PDF  研究成果:診療情報提供書Word

調査研究