県南さんぽだより 第55号
2018/1/1発行 発行所:県南地域産業保健センター 発行人:大西 慶造
「12年の歳月の流れに想う」
筑波大学医学医療系准教授 竜ヶ崎地方事業所健康づくり対策連絡会 会長
山海 知子
「山海先生、久しぶりに県南さんぽだよりに書いていただけませんか。」1ヶ月前、大西コーディネーターから思いがけない依頼を受けた。「え、私ですか。(特に面白い趣味もないし、仕事の愚痴は書けないし、困ったな。)久しぶりということは以前書きましたっけ。」「ずっと前に書いてもらってます。」「本当ですか。すっかり忘れてました。」早速、県南さんぽだよりのバックナンバーをホームページで探してみた。確かに2006年2月7日号に「いただきます」のタイトルでエッセイを書いていた。産業保健とは何の関係もない内容で、他の筆者の方々は産業保健での問題点や取り組んでいる趣味や特技についてしっかり述べられているのに比べて何たる体たらくであろう。赤面してしまった。
「いただきます」を書いたのはほぼ12年前になる。この12年で私の置かれている状況も変わった。当時、キヤノン株式会社取手事業所の専属産業医として働いており、やりがいを持って産業医としての仕事に取り組み、子育て中でいわゆるワークライフバランスは大変良好であった。就業条件は本当に恵まれたものであった。そして、定年までこのまま勤めるのだろうとぼんやり考えていた。日本産業衛生学会の会員となり、2004年に労働衛生コンサルタント(保健衛生)、2007年に日本産業衛生学会専門医を取得し、産業保健の実践専門家として活動していくつもりであった。
ある日、大学の研究室の先輩で大阪大学公衆衛生学教室の教授をされている磯博康先生から1本の電話があった。「山海さん、筑波大学で准教授の募集があるけど、大学に戻って来るつもりはない?」「えっ!?」本当に驚いた。しかし、次の瞬間、忘れていたものを思い出した。筑波大学医学専門学群(現:医学群医学類)を卒業し、そのまま大学院に進み、患者を診る臨床医としてのキャリアよりも地域住民を対象とした生活習慣病の予防のための研究に携わることを選び、そのためにずっと研究の道を進もうと考えていた頃の自分を思い出してしまったのである。10年ほどの研究のブランクはあったものの未だ明らかにされていない疾病の正体を探る研究という分野は魅力的であった。そして、悩みに悩んだ末、2010年にキヤノン株式会社取手事業所の専属産業医をやめさせていただき、筑波大学准教授として大学に戻ることとなった。キヤノン株式会社様には本当に申し訳ないことをしたと思う。現在も嘱託産業医として雇っていただいているのは本当にありがたいことである。
私は大学に戻り、主として看護学生の教育を行うとともに、地域住民を対象とした疫学研究に従事することになった。疫学研究とは、地域や職域の人々を対象として疾病の実態を探り、疾病の危険因子(リスクファクター)を探る研究である。この研究成果から、国の政策の方向性が決まることもある。例えば、大学院生時代に私の指導教授でおられた小町喜男先生の研究グループは、1960年代に秋田の農村と大阪の都市近郊地域を比較し、脳卒中や虚血性心疾患の地域差とその背景となる要因を研究し、塩分の過剰摂取と高血圧、脳卒中との関連や血液中のコレステロールが少ないことが脳内出血の原因の一つとなる可能性を示した。その他様々な地域・職域の疫学研究グループでも同様の結果が得られたことから、国は基本健診などの成人病対策を行ったのである。小町教授は大変厳しい先生であったが、大事なことを教えていただいたと思う。大学の研究室にいるだけではダメだ、地域に出て、地域住民と一緒に疾病の対策をすることが大事であると。その教えは今も私の中にある。専属産業医として勤務する前に筑波大学で疫学研究に従事していた頃、地域住民の調査として健康診断を行うと、働き盛りの男性が会社勤めを理由に地域の健康診断を受けないことが多く、40歳代、50歳代の男性の血圧やコレステロール値などの実態がわからない状態であった。市町村等で生活習慣病対策を立てる際に、その年代の実態がつかめないのは問題である。一方、そのような勤務者が退職後の60歳代に国民健康保険に加入することになり、地域の健康診断の対象者となるのだが、健康診断結果を見ると、生活習慣病がかなり悪化していてもっと早く生活習慣を正し、あるいは医療機関で治療を受ければよかったのにと感じる人にしばしば出会った。健康診断を受けていない人や健康診断を受けていてもその結果を生活習慣病の管理に活かしていない人をどうすればいいのか。高血圧、糖尿病、痛風を放置したことによって、腎機能が悪化し、人工透析に至った人々、または脳卒中や心筋梗塞などを発症した人々、寝たきりや認知症で要介護状態となった人々、そうなる前に防ぐことはできなかったのか。その解決策の一つが、職域と地域の連携であろう。私が専属産業医の道を選んだ動機でもあった。また、職域と地域の連携という理想に想いを巡らせていた時、ご縁があって竜ヶ崎地方事業所健康づくり対策連絡会会長を引き受けさせていただくこととなったが、この会の活動を通しても残念ながら未だにその理想に近づけていない。
大学での日々は専属産業医としての規則正しい生活とは真逆の不規則極まる生活となった。せっかく身についた規則正しい食事と運動習慣が失われてしまい、自身の健康診断結果に戦々恐々の毎日を過ごしている。疾病予防を掲げている者が情けない。しかし、諦めてはいない。焦っていないわけではないが、失敗しても諦めずに取り組んでいこうと思う。幸いなことに大学における教育及び地域貢献活動が評価され、この7年間で3回表彰を受けることができた。専属産業医として培った経験が教育や学生の支援活動に活きていると感じている。
12年前、生活習慣病のこと、食育のことを考えながら、「いただきます」を書いた。この12年間、私を取り巻く環境は様々な変化があった。来し方に反省することも多いが、得たものも多い。還暦を挟むこれからの12年、どんな変化があるだろう。衰える知力と体力に不安もあるが、一方、新たな経験が増えるという楽しみもある。一歩一歩、焦らず諦めず(人と比べず)進むしかないと思う。
【県南地域産業保健センター・(一社)労働基準協会】 からのお知らせ
- これからの行事日程
- 平成29年度第2回労務管理セミナー開催のご案内
主催:(一社)龍ケ崎労働基準協会 労働問題推進部会
日時:平成30年2月22日(木)13時30分~16時
場所:龍ケ崎労働基準協会 2階学科講習会場
内容:「労働基準法の基礎について」「最近の法改正について、働き方改革の取組について」 - 平成30年度龍ケ崎地区全国安全週間準備打合せ会
主催:(一社)龍ケ崎労働基準協会
日時:平成30年6月6日(水)13時30分~16時
場所:龍ケ崎市文化会館小ホール
内容:
(1) 全国安全週間実施要綱の説明
(2) 産業保健活動総合支援事業の説明
(3) 特別講演 「未定」
◇ 当日は、開演2時間前より県南地域産業保健センターによる健康イベント、協力産業医による健康相談会を同時に開催いたしますので、ぜひ参加ください。
- 平成29年度第2回労務管理セミナー開催のご案内
冬の乾燥肌対策
乾燥肌の状態をみると、皮膚の表面に乱れが起きていて、健康な肌では表皮の下くらいまでしか伸びていないC繊維(痒みを感じる神経)が表皮の中まで伸びています。この状態の皮膚は、保湿機能が低下し、刺激に対しても敏感になっています。そこで、まず肌の保湿を保つためのスキンケアを再確認し、実践することから乾燥肌対策を始めましょう。
乾燥肌のためのスキンケア~入浴法~
- 長湯をしない湯の温度は38~40℃に
熱いお湯に長く浸かっていると、皮膚はダメージを受けます。また、熱いお湯は痒みを誘発するので、つい引っ掻いたり、強くこすったりして肌を痛めてしまいがちです。入浴剤は、使用方法や成分をよく確認して使ってください。硫黄成分には、肌の乾燥を促進する性質があります。 - 石鹸の使いすぎに注意
石鹸の成分が肌に残っていると、肌にトラブルを起こすことがあります。しかし、すすぎ過ぎもよくありません。石鹸は適量を使うことが大切です。汚れやすい部分以外は毎日石鹸を使う必要はないかという意見もあります。 - 洗うとき、拭くときに強くこすらない
肌を強くこすると、汚れだけでなく皮膚の角質層がはがれてしまうことがあります。身体を洗うときは手の平で優しく丁寧に。お風呂あがりには、バスタオルで柔らかく押さえるように拭くようにしましょう。
乾燥肌のためのスキンケア~保湿剤~
肌から水分を逃がさないよう保護するために保湿剤は欠かせません。保湿剤は入浴後すぐ(10分以内)に塗るのが効果的です。
保湿剤を塗る際には、手の平で優しく、できるだけ広く塗るようにします。すり込むように塗るのは皮膚を傷め、逆効果です。
使用する保湿剤は、皮膚科で処法された物が安心です。