メタボリック・シンドローム

産保亭扇太

――― 横丁のご隠居さん人情相談 産業保健編 第1回
八つぁん 「(浮かぬ顔で)ご隠居さん。えらいことになっちまった」
ご隠居 「なんだね八つぁん。浮かぬ顔をして、なんか心配事でもあるのかい。話してごらん。」 
八つぁん 「このあいだ健康診断を受けたんでさあ。そしたら、産業医の先生がいうには、おいらァ、メタボリ何とかといわれて」 
ご隠居 「メタボリ・・?。ああ、メタボリック・シンドロームのことだね」 
八つぁん 「そう、そのメタボリ。その後に『死んでらー』とくるもんだから、おいらもう駄目かと思って」 
ご隠居 「なるほど。お前さん、最近、貫禄がついたね。でも大丈夫だ、すぐには死なないよ」 
八つぁん 「本当ですかい。あ~ァ良かった」 
ご隠居 「でもね、すぐには死なないといったが、このままだと危ない。心臓病や脳卒中で倒れる心配がある。死ぬのはそれからだ」 
八つぁん 「ご隠居さん、冗談は言わないでくださいよ。弱ったな・・。どうしたいいんですか」 
ご隠居 「うん。まあ、よくお聞き。肥満症や高血圧、高脂血症、糖尿病などを生活習慣病という」 
八つぁん 「そいつは知っている。喰い過ぎ、飲み過ぎ、運動不足、それに吸い過ぎっていうやつですね。いいやつなんですがねぇ」 
ご隠居  「おいおい。そんなに生活習慣病の肩を持つな。これらは、それぞれが独立した別の病気ではなく、肥満、特に内臓に脂肪がついた内臓脂肪型肥満が原因であることがわかってきた。内臓脂肪型肥満によって、さまざまな病気が引き起こされやすくなった状態をメタボリック・シンドローム(代謝症候群)というんだ」 
八つぁん 「なるほど」 
ご隠居 「肥満と一言でいっても、体のどの部分に脂肪がつくかによって、2つのタイプに分かれる。下っ腹や腰まわり、おしりのまわりに脂肪がつくタイプを「皮下脂肪型」、内臓のまわりに脂肪がつくのを「内臓脂肪型」とよび、体形からそれぞれ「洋ナシ型肥満」「リンゴ型肥満」ともよばれている。 
八つぁん 「おいらは、そのリンゴちゃん。」 
 ご隠居  「可愛くないリンゴだ。わが国では、内臓脂肪の蓄積をウエスト径で測って、男性85cm以上、女性90cm以上を基準値として、高脂血症、高血圧、高血糖のうち2つが該当する場合をメタボリック・シンドロームと診断している」
 八つぁん  「おいら、全部あたってます。低いのは給料だけでさぁ」
 ご隠居  「血圧、肥満、血糖、血中脂質の4項目すべてに異常が見られると、特に心臓病などのリスクが高まり、最近は「死の四重奏」とも呼んでいる」
 八つぁん  「弦楽四重奏なら、おいらモーツァルトの方が好きだ」
 ご隠居  「おいおい。そんなことを言っている場合じゃない」
 八つぁん  「じゃあ、どうしたらいいですかい」
 ご隠居  「生活習慣をちょっと改善するだけで、内臓脂肪を減らし、メタボリック・シンドロームを防ぐことができる。例えばだ、運動は内臓脂肪を減らすのに一番有効な方法だ」
 八つぁん  「わかっちゃいるけど。貧乏暇なしで」
 ご隠居  「会社の行き帰りは歩いているかい?階段あり、坂道あり、まわり道あり、どこでも運動できるじゃないか。バス停一つ分歩いてみるのもいいな」
 八つぁん  「歩けば電車賃も、バス賃もかからないって訳で。貧乏人にはもってこいだ」
 ご隠居   「それにバランスの良い食事と腹八分目。これがメタボリック・シンドロームにならない秘訣だ。1日1回、体重と歩数を記録しておき、頑張った点や反省点をノートに書いておくと、楽しみながらチャレンジできるから、やってごらん」 
 八つぁん  「腹八分目ですか。残業して遅く帰れば残り物しかありませんがね」 
 
ご隠居 「気の毒に」 
 八つぁん  「しかし、財布から出たお金と同じゃありませんか」 
 ご隠居  「なんだね、財布から出たお金とは」 
 八つぁん   「お金と同じでおなかも、一度出たものはなかなか元には戻りません」 

 
 おあとがよろしいようで