平成29年度・騒音性難聴防止のための「よくある質問」回答集の作成

研究代表者 茨城産業保健総合支援センター 産業保健相談員
筑波大学医学医療系  准教授 和田 哲郎
研究分担者 茨城産業保健総合支援センター  産業保健相談員
株式会社日立製作所水戸健康管理センタ  センタ長 中谷  敦
共同研究者 筑波大学医学医療系  教授 原  晃
筑波大学医学医療系  講師 廣瀬 由紀
筑波大学医学医療系  講師 西村 文吾
筑波大学医学医療系  講師 中山 雅博

1 はじめに

騒音性難聴は未だに治療が困難な疾患であるが、予防することは可能である。従来、騒音性難聴をきたすような大きな音に長期間さらされる環境は職業性のものがほとんどであった。しかし、近年の音響機器性能ならびに携帯性の向上に伴い、一般の生活の中でも大きな音を以前より手軽に長い時間聞くことが可能となり、そのような生活環境では非職業性の騒音性難聴も起こりえる。音楽など、本人にとって好ましい音を聞く場合であっても、やはり負荷が大きすぎれば難聴を起こす危険性がある。長時間、繰り返し強大音を聞く生活習慣による難聴発症のリスクを、様々な機会を通して啓発していく必要があると考えられる。
「騒音性難聴に関わるすべての人のためのQ&A」は、平成26年度から平成29年度調査研究着手までの期間に、全国の産業保健総合支援センターに寄せられた騒音性難聴に関する相談や質問を茨城産業保健総合支援センターで整理集計し、独立行政法人労働者健康安全機構平成29年度産業保健調査研究(茨城産業保健総合支援センター)として回答をまとめ、それらの回答の科学的な正当性を平成29年度厚生労働省労災疾病臨床研究事業「騒音性難聴による生活の質と労働生産性の低下を防ぐ予防から発症後まで俯瞰したデータ収集と現場の支援(170601-01)」(代表:和田哲郎)の支援を受け、一般社団法人日本耳鼻咽喉科学会産業・環境保健委員会において審査、編集を経て作成したものである。本Q&Aは、労働基準行政職員、産業保健総合支援センターの職員のほか、地域産業保健センターの登録産業医、事業場の産業医、産業看護職、衛生管理者等の業務の参考資料として普及することを目的としている。なお、本Q&Aの内容は日本耳鼻咽喉学会の承認を取得している。また、今回の調査研究に関連し、開示すべき利益相反状態はありません。

2 調査方法

全国の産業保健総合支援センターに対し、平成26年度から平成29年度までの間に産業保健スタッフ等から寄せられた騒音性難聴に係る相談票を回収したところ、約50件の相談が認められ質問事項を整理した。回答文は参考文献を元に、現場における産業医の実務経験が長い茨城産業保健総合支援センターの産業保健相談員の点検、助言を得て作成した。

3 質問事項の整理

上記2の調査結果から以下のとおり質問事項を整理した。

(1)騒音の影響ならびに騒音性難聴について
「Q1-1 騒音の人体への影響を教えてください。」等騒音性難聴に係る9個の設問を整理した。

(2)関連する耳疾患について
「Q2-1 銃火器による難聴も騒音性難聴と同じですか。」等騒音性難聴に関連する耳疾患に係る10個の設問を整理した。

(3)作業環境管理(騒音測定および騒音低減策を含む)
「Q3-1 騒音の作業環境測定を実施すべき事業所の基準を教えてください。」等作業環境管理に係る25個の設問を整理した。

(4)作業管理(騒音性難聴防止対策)
「Q4-1 騒音作業場があり、騒音を小さくすることができません。対策を教えてください。」等作業管理に係る10個の設問を整理した。

(5)健康管理①(健康診断と聴力検査)
「Q5-1 騒音作業従事者の聴力検査は年に1回ですか、半年に1回必要ですか。」等健康管理のうち健康診断と聴力検査に係る17個の設問を整理した。

(6)健康管理②(健康診断結果に基づく事後措置)
「Q6-1 健康診断で所見ありの労働者が複数います。どうすればよいですか。」等健康管理のうち健康診断結果に基づく事後措置について7個の設問を整理した。

(7)労働衛生教育
「Q7-1 騒音について従業員教育を実施したい。どうすればよいですか。」等労働衛生教育に係る6個の設問を整理した。

(8)法令・制度等
「Q8-1 騒音性難聴に対する衛生管理者の役割を教えてください。」等20個の設問を整理した。

4 回答の作成

このQ&Aは産業医や産業看護職等実際に事業場で産業保健活動を行うスタッフを念頭においたものであり、各質問事項に対する回答を作成するにあたっては、各種文献を参考としながらも丁寧な記述を心掛けた。
一例を挙げると、
「Q6-3 労働基準監督署への報告の仕方を教えてください。」に対する回答としては、
「A 健康診断結果は、「指導勧奨による特殊健康診断結果報告書」(表6-2)を用いて所轄労働基準監督署に遅滞なく報告します。この際、管理A, B, Cは表6-3の健康管理区分表(基発第939号 昭和38年8月19日)に基づき記載することとなっています。騒音性難聴は聴覚検査異常を有するため管理Aではありません。治療が有効でないため、管理Cにも該当しません。二次検査(オージオメータによる気道純音聴力検査)は経過観察のために必須と考えられますので、騒音性難聴は全員が管理B2に分類されることになります。該当する人数を記載して労働基準監督署へ提出してください。」と回答した上で、「表6-2 指導勧奨による特殊健康診断結果報告書」と「表6-3 健康管理区分表」を示し、他の法令・制度関係の問いに対してもそのまま使えるような様式を掲載すると共に、わかりにくい法令関係を図表化して平易なものとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表6-3 健康管理区分表

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研究代表者:和田 哲郎(相談員)

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