入社前研修中の怪我/労災保険は適用になるか

産保亭扇太

――― 横丁のご隠居さん人情相談 労務管理編 第2回
熊五郎 「ご隠居さん、大変だあ、大変だあ」
ご隠居  「なんだ、熊さんじゃあないか。何が大変なんだい?」
熊五郎 「それが、八のところの倅、今度就職がきまったんですが」
ご隠居 「ほう。それは目出度い。おばあさん、ご祝儀を用意しておくれ」
熊五郎 「それはどうも・・」
ご隠居 「お前さんにやるんじゃない。八っあんのところの倅にだ。ところで、何が大変なんだい?」
熊五郎 「八のところの倅、早く会社に慣れるようにと、入社前から研修に行ってたんですが、会社で怪我をしちまいまして・・・。ご隠居、こういうのって労災になるんですかい」
ご隠居 「ふむ。ところで、八つぁんの倅は、研修でどんなことをしていたんだい?」
熊五郎 「へえ。簡単な機械の操作をしているときに、誤って機械に手をはさんでしまったらしいです」
ご隠居 「なるほど。入社前研修中の事故が労災となるかどうかは、まず八つぁんの倅に労働者性があるかどうかが問題になる」
熊五郎 「なんですかい。その労働者性って?」
ご隠居 「簡単にいうと、労働者といえるかどうかだ。自由参加の一般研修などの場合は、たとえ研修に参加しても労働ではないとされている。反対に、参加が義務づけられていて会社の業務指示に基づいて行われていたり、研修内容が会社の本来業務の遂行を含むような場合には労働者といえる。ほかに、研修に対して報酬が支払われていて、それが一般の労働者なみか、それを考慮して決められているかどうかもポイントだな」
熊五郎 「なるほど、給料が出ていたり、実際に工場に出て作業している最中に発生した事故ならば、労災になるかもしれないってことですね」
ご隠居 「まあ、そうだね」
熊五郎 「わかりやした。早速、八に教えてやります。でも、ご隠居さん、ロウサイのことに詳しいですね」
ご隠居 「おばあさんのことかい。長年連れ添っただけに、老妻のことは何でも知っている」

おあとがよろしいようで