健康診断について (3)

茨城産業保健総合支援センター
(茨城県医師会報 平成19年04月号掲載)
2月号のつづき

(7) 海外勤務労働者の健康診断

経済の国際化に伴い海外で勤務する労働者が増えていますが、労働者を6月以上海外にて勤務させようとするときは、あらかじめ次の項目の健康診断を行われなければなりません。
また、6月以上海外勤務した労働者を帰国させ、国内の業務に就かせるときも、健康診断を行わなければなりません。

<基本検査項目 >

  1. 既往歴および業務歴の調査
  2. 自覚症状および他覚症状の有無の検査
  3. 身長、体重、腹囲、視力および聴力の検査
  4. 胸部エックス線検査および喀疾検査
  5. 血圧の測定
  6. 貧血検査(血色素量、赤血球数)
  7. 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
  8. 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪)
  9. 血糖検査
  10. 尿検査(尿糖、尿タンパク)
  11. 心電図検査

さらに医師が必要と判断したときは次の項目について健康診断を実施しなければなりません。

医師が必要と認める場合に行う項目  ※ 身長の検査および喀痰検査は、医師が必要ないと認めるときは省略できる。
雇入時健診、定期健診を受けた者については、当該健康診断実施の日から6ケ月間は同一の検査項目を省略することができる。
12.腹部画像検査
(胃部エックス線検査、腹部超音波検査)
13.血液中の尿酸値検査
14.B型肝炎ウイルス抗体検査
15.ABO式およびRh式の血液型検査(勤務前に限る)
16.糞便塗抹検査(帰国時に限る)

このように、1~11までの健診項目は、19年1月号で説明しました定期健康診断の健診項目と同じです。従いまして、海外勤務時の健康診断については、直近の健康診断から6月以内に限り、その者が受けた当該健康診断の項目に相当する項目を省略して行うことができます。
また、「身長の検査」についての年齢等についての年齢等による省略や「喀痰検査」について胸部エックス線検査によって病変の発見されない者等についての省略も同様です。
勤務先での健康の維持ならびに現地での発症や罹患を未然に防ぐため、勤務前健康診断を実施することは極めて重要と考えられますので、是非、受けるようにしましょう。
なお、労働者健康安全機構では、現地で健康問題にお悩みの方や海外勤務に不安をお持ちの方に対して、こうした海外勤務者とその家族の健康面を総合的にバックアップする施設として、海外勤務健康管理センター(平成22年3月閉鎖)を設置しております。また、同センターでは、海外赴任者のための地域情報を提供したり、豊富な診療経験と医療情報に基づいた海外勤務前後の健康診断、予防接種などを行っていますので、ご利用ください。

(8) 結核健康診断

雇入時健康診断、定期健康診断、特定業務従事者の健康診断又は海外勤務労働者の健康診断(これらを「一般健康診断」ともいいます)の際に、結核のおそれがあると判断された労働者に対しては、その後おおむね6月後に、次の項目について健康診断を行わなければなりません。

  1. エックス線直接撮影による検査及び喀痰検査
  2. 聴診、打診その他の必要な検査

なお、2の検査については、医師が必要でないと認めたときは省略することが出来ます。

3. 深夜業務従事者の自発的健康診断の結果の提出 (労働安全衛生法題66条の2)

深夜業務に従事する労働者であって、その回数が6月間で合計24回以上深夜業に従事した者は、自ら健康診断を受けて、その健診結果を事業者に、提出することができます。
これは、深夜業に従事する方が自己の健康に不安を感じ、次回の健康診断を待てない場合に、自ら健康診断を受診し、その結果を会社に提出できるようにしたもので、健診結果の提出を受けた会社は、後述するように、法定の健康診断と同様に医師から意見を聞き、必要があると認める場合には、労働者の健康保持のために必要な措置を講じなければなりません。
この自発的健康診断を普及促進するため、受診費用の3/4(但し7,500円が限度)を労働者に対し助成する「自発的健康診断受診支援助成金(※平成22年度で終了となります)」があります。
ちなみに、深夜業とは、午後10時から翌日の午前5時までの間における業務をいい、勤務時間の一部でも午後10時から午前5時までの時間帯にかかる場合は「深夜業の業務」があるとします。また、助成の対象となる健康診断は、定期健康診断と同じです。
「助成金」について、詳しくは茨城産業保健総合支援センター(029-300-1221)までお尋ね下さい。(※平成22年度で終了となります)
ところで、この助成金は、深夜業務従事者が自ら受ける健康診断を助成する目的で創設されたものであり、従来より事業者が行っていた年2回の特定業務従事者の健康診断に対する助成ではありません。したがって、本助成による自発的健康診断の結果をもって、法定の年2回の健康診断に代えることはできません。

4. 健康診断結果に基づく就業上の措置について

(1) 医師等からの意見聴取(法第66条の4)

事業者は、健康診断(※)の結果、健診項目に異常の所見があると診断された労働者については、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師又は歯科医師の意見を聞かなければなりません。また、この意見聴取は速やかに行うことが望ましく、原則として健康診断が行われた日から3ヶ月以内(自発的健康診断結果が提出された場合は2ヶ月以内)に行い、医師等の意見を健康診断個人票に記載しなければなりません。
なお、この意見聴取は、健康診断を実施した医師による診断区分(異常なし、要観察、要治療等の区分)に関する判定とは異なり、労働者の就業上の措置を決定したり、事業場の作業環境管理・作業管理等を見直したりするために行うものですから、産業医の選任義務のある事業場では、労働者個人ごとの健康状態や作業内容、作業環境について詳細に把握し得る立場にある産業医から意見を聴くことが適当です。
また、産業医の選任義務のない事業場でも、労働者の健康管理を行うのに必要な医学的知識を有する医師等から意見を聴くことが適当であり、こうした医師が労働者の健康管理等に関する相談等に応じる地域産業保健センターを利用することをお勧めします。
医師が適切に意見を述べるには、労働者に係る作業環境、労働時間、労働密度、深夜業の回数、作業態様、過去の健診結果等の情報を知ることが大切です。このため、厚生労働省が定めた「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(以下「指針」という)では、事業者に対し、こうした情報を医師等に伝えるほか、必要により職場巡視や労働者との面接の機会を提供することが適当であるとしています。
聴くべき意見の内容は、就業区分及びその内容と作業環境管理及び作業管理についての意見です。なお、就業区分に関する意見は、次の例によります。

就業区分 内容 就業上の措置の内容
通常勤務 通常の勤務でよいもの
就業制限 勤務に制限を加える必要のあるもの 労働時間の短縮、出張の制限、時間外労働の制限、労働負荷の制限、作業の転換、就業場所の変更、深夜業の回数の減少、昼夜勤務への転換等の措置を講ずる。
要休業 勤務を休む必要のあるもの 療養のため、休暇、求職等により一定期間勤務させない措置を講じる。

※ここで言う健康診断には、法66条で定める雇入れ健康診断、定期健康診断、特定業務従事者の健康診断、特殊健康診断、歯科医師による健康診断等のほか、第66条の2で定める自発的健康診断も含まれます。なお、特殊健康診断、歯科医師による健康診断等については次号以降で詳しく説明します。

(2) 健康診断実施後の措置(法第66条の5)

健康診断結果に基づく就業上の措置について医師等の意見を聴取した事業主は、当該意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講じなければなりません。つまり、健康診断実施後の事後措置として、事業者に対し、医師等の意見を踏まえたさらに具体的な措置をとるよう義務付けています。
なお、この就業上の措置は、当該労働者の健康を保持することを目的としたものですから、健康の保持に必要な程度を越えた措置は行うべきでありませんし、ましてや医師の意見等を理由に安易に解雇等の不利益な処分を行うべきではありません。
このため、法にも「当該労働者の事情を考慮して」と規定していますし、前期指針でも、事業者が「就業上の措置を決定する場合には、あらかじめ当該労働者の意見を聴き、十分な話し合いを通じてその労働者の了解が得られるよう努めることが適当」としています。
また、就業上の措置を講じた後、健康状態の改善が見られた場合には、医師等の意見を聴いた上で、通常の勤務に戻す等適切な措置を講ずることは言うまでもありません。

【再検査又は精密検査の取扱いは?】
よくご質問が寄せられる項目です。再検査又は精密検査について、有機溶剤、鉛、特価物製造・取扱作業及び高圧作業等に関する特殊健康診断(後述)については、その実施が事業者に義務付けられていますが、一般健康診断の場合は、実施が義務付けられているものではありません。
しかし、再検査又は精密検査は、診断の確定や症状の程度を明らかにするものであり、就業上の措置を決定するに当たっては、できる限り詳しい情報に基づいて行うことが適当であることから、「指針」では、再検査又は精密検査を行う必要のある労働者に対して受診を勧奨するとともに、意見を聴く医師等に当該検査結果を提出するよう働きかけることが適当であるとしています。

 

(次号に続く)