平成10年度・『地場産業である石材業における粉じん作業に関する実態調査』
茨城産業保健推進センター 産業保健相談員 木村 菊二
1、はじめに
茨城県西部地域から産出される御影石(花崗岩)は古くから建設資材、墓石、灯篭等に広く利用されている。この地域には笠間市(稲田)、真壁町・大和村(真壁)岩瀬町(羽黒)の3つの石材組合があり、労働者をしようしていない零細な事業所を含め578の業者が加入している。今回の調査は、この地域の石材業を対象に粉じんに関する実態調査を実施した。
2、調査の対象及び調査の方法
調査は、採石場及び加工場における粉じん濃度の測定。また、作業者が着用していた防じんマスクについて、及び、一定の条件で使用した防じんマスクの性能を測定して、使用に伴う性能変化を求めた。
3、測定の方法及び結果
3-1 粉じん濃度について
石材加工における切断や研磨等の機械加工は、すべて湿式化している。ただし、手持ち工具を用いた研磨作業も行われている。 今回の調査では加工場における手持ち工具を用いた研磨作業及び、採石場において、測定基準に準じて測定を行い、さらに個人曝露濃度の測定も行った。 測定の結果は次のようである。
研磨盤に人工ダイアモンドの付いたハンドグライダーを用いて、墓石の仕上げ研磨を行っていた。
作業場の前方に9個の排風機が設置されており、排風機の前方30cmの所で約1.8m/秒の風速が認められた。
研磨によって発生した粉じんが排風機と反対方向へ飛散するときには作業者の呼吸位置で約10mg/m3の粉じんが認められることもあった。
研磨によって発生した粉じんの飛散の方向が、常に排風機の方向になるよう改善することが望まれる。
なお、単位作業所としての測定結果は、管理区分1、個人曝露濃度は1.43mg/m3であった
研磨盤に人工ダイアモンドの付いたベビーサンダーを用いて鳥居材の表面荒削りを行っていた。この作業場には、局所排気装置が設置されている。しかし、吸じんフードは直径20cmのフレキシブルパイプを切断したものである。吸引速度はパイプの入口で約24m/秒が認められた。吸引口から数10cm以上離れると研磨によって発生した粉じんはほとんど吸引されなくなってしまう。研磨によって発生した粉じんの飛散方向、研磨面と吸引口との距離などを考慮して発生した粉じんを完全に吸引除去するよう、改善が望まれる。
なお、単位作業場所としての測定結果は、管理区分3、個人曝露濃度は6.00mg/m3であった。
3-2 防じんマスクについて
3-2-1 使用していた防じんマスクの性能変化
作業者が使用していた防じんマスクをそのまま持参してもらい、マスクテスターMTS2(柴田科学製)によってその性能の測定を行った。
ここで使用されていたろ過素材はすべて静電ろ過材であった。22個の防じんマスクを測定した結果、
ろ過材の劣化・・・・・・・10例(45.5%)
ろ過材のセット不良・・・・ 3例(13.3%)
ろ過材良好・・・・・・・・ 9例(40.9%)
3-2-1 一定期間使用した防じんマスクの性能変化
作業者に防じんマスクの正しい装着方法の指導を行ってから、1名の作業者に交換用のろ過材を5枚配布し、1枚のろ過材を5日間使用した後、纏めて推進センターへ送付してもらい、そのろ過材の性能をマスクテスターを用いて測定した。さらに、いくつかのろ過材について付着した粉じん量の測定を行った。この調査にはKoken1010型とTs74型をほぼ同数使用した。
(ろ過材は300枚配布、回収したのは230枚)
<使用後のろ過材の吸気励行と捕集効率>
測定の結果は図1に示した。一般的に、ろ過材に粉じんを捕集すれば目詰まり効果によって吸気抵抗は上がり、また、捕集効率も上昇するものと考えられている。今回の調査結果では、吸気抵抗は上がって、捕集効率は低下するものも認められた。
<図1>
<吸気抵抗の日変化(5日間使用の平均値の変化)>
同一作業者が繰り返し5日間装着した5つのろ過材の吸気抵抗及び捕集効率の値を作業者別に調べた、吸気抵抗の結果の一例を図2に示した。
<図2>
<ろ過材に付着した粉じん量>
付着した粉じんを除去する前後にろ過材を秤量して、付着した粉じん量を求めた。粉じん量と吸気抵抗との関係を図3に示した。この関係から吸気抵抗の値から付着した粉じん量を推定して図4に示した。
<図3>
<図4>
粉じんの個人曝露濃度から試算した粉じん量に対して、ろ過材に付着した粉じん量は著しく大きい値を示している作業者が多い。この原因については更に検討が必要であるものと考えられる。
また、ろ過材に付着した粉じんを除去後の吸気抵抗はかなり低下し、捕集効率には大きな変動は認められなかった。 なお、アンケートによって全事業所に対して実態調査を行い、石材業における粉じんに関する諸問題についての資料を得た。