5 健康障害について
30年間以上、サッシ会社でサッシを運ぶ仕事についていました。
このたび、検査のために肺のCT写真を撮ったところ、下肺野に影が見られました。医師からはアスベストによるものだと言われ、せきや痰がひどく出ることもあります。
しかし、仕事でアスベストを取扱った記憶はありませんし、かつての同僚に聞いても同じです。
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アスベスト(石綿)を大量に吸い込むと、下肺野を中心にアスベストの症状が見られることがあります。
アスベスト肺といわれ、比較的高濃度のばく露によって発生するじん肺です。症状としては労作時の息切れ、空咳などがあります。
低濃度のばく露でも、ばく露から10年以上経過すると、壁側胸膜の中皮下に両側性の不規則な白板状の肥厚(胸膜プラーク)が認められる場合があります。
胸膜プラーク自身では肺機能障害を伴うものではありませんが、我が国では石綿ばく露によってのみ発生すると考えられ、石綿ばく露の指標として重要です。
このほか、アスベストとの関連が明らかな疾病としては、肺がん、中皮腫、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚があります。
但し、肺がんや胸水貯留、びまん性胸膜肥厚は石綿以外の原因でも生じるため、石綿ばく露の特異性が低くなります。とくに、肺がんでは喫煙が重要な危険因子となっています。
さて、問題はアスベストに暴露していたかどうかです。
アスベストがどこでつかわれていたかといいますと、アスベストは生活のいろいろなところで使用され、その使われ方は3000種といわれるほどです。大きくは工業製品と建材製品に分けられますが、その約9割は建材製品でした。
住宅屋根用化粧スレート、天井材としてつかわれた石綿含有フレキシブルボード、外壁材としての石綿スレートや石綿コンクリート、間仕切り壁としての石綿カルシウム板、床材などにもアスベストは使われていました。
また、ビルの鉄骨・はり・柱・天井・壁には、吹付けアスベストが施工されていました。
ではサッシにもアスベストが使われていたかというと、はっきりは分かっていませんが、ある会社が製造・販売していたプラスチックサッシには、石綿含有断熱シートをアンカー(金属金物)に貼り付けて使用していたようです。
通常の使い方ではアスベストが飛散する可能性は低いと思われますが、切断、穿孔、破砕等によりアスベストが飛散する可能性はあります。
このほか、各サッシ製造メーカーはカーテンウォール製品を製造しており、過去において、アスベスト含有材料を使用していた時期がありました。使用材料については、「吹付け材」と「成形板(耐火ボード)」等があるそうです。(出典:社団法人カーテンウォール防火開口部協会ホームページ)
これら製品は、同ホームページで「内装仕上げ材やパネル等で覆われているため、飛散する可能性が極めて低いものと思われます」としていますが、前記のサッシ同様、切断、穿孔等による加工、取り外しのための破砕等により、アスベストが飛散する可能性は充分にあります。
運搬作業に従事する場合でも、製造又は加工する過程で飛散したアスベストが付着したままの製品を取扱うことがありますから、石綿ばく露の可能性は否定できません。
アスベストにばく露する作業に従事しているか又は従事したことのある労働者が上記の疾患(胸膜プラークを除く)にかかり、そのために療養・休業したり、あるいは不幸にして亡くなられた場合には、労災補償の対象となることが考えられます。
詳しい取扱は「石綿による疾病の認定基準について」(平成18年2月9日付け基発第0209001号)にありますので、それを参照してください。
また、石綿を製造し又は取り扱う業務に従事した離職者で、両肺野に石綿による不整形陰影か石綿による胸膜肥厚(胸膜プラーク)が認められる場合、又は石綿の製造や石綿の吹付作業に1年以上従事していた方及びこれ以外の作業で石綿を取り扱う作業に10年以上従事していた方については、労働局に申請することにより「健康管理手帳」の交付が受けられ、指定された医療機関で、6ヶ月に1回健康診断を無料で受けることができます。
石綿関連疾患は石綿ばく露開始から発症までの潜伏期間が長いことが特徴ですから、在職中に疾患が発見されたり肺の異常陰影に気がつくことは稀です。
まずは当時、何を運搬したか、取扱いした製品のなかにアスベストが含まれていたかどうかを勤務先の関係者に確かめてください。
テトラクロルエチレンやトリクロルエチレンは、高濃度ばく露により肝障害や腎障害を引き起こすとされていますが、これら有機溶剤による腎障害と、その他の原因による腎障害の鑑別点を教えてください。
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一般に有機溶剤による全般の健康障害の発症機序は、皮膚または粘膜(眼・呼吸器・消化器)に付着することによりその部位で作用するほか、長期間の反復吸収によってその種類により特有な代謝をうけ臓器特有(標的臓器)の毒性(特異毒性)を発現するものがあります。
腎障害もその一つですが、腎障害は標的臓器としての蓄積性障害あるいは排泄過程での障害であろうと考えられます。
有機溶剤を多量に飲んだときの所見としては、腎の壊死・変性や尿細管の混濁腫張が見られるとされ、また慢性中毒実験の際の所見での主たる病変は尿細管障害であるとされています。
有機則に定められた物質のうちで腎機能障害が知られており、健診で医師が必要と認めたときに腎機能検査(尿蛋白検査)を必要とするものとしては、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロルエタン、1,2-ジクロルエチレン、1,1,2,2-テトラクロルエタン、クロルベンゼン、オルトージクロルベンゼン、トリクロルエチレン、テトラクロルエチレン等があります。これらは脂肪族炭化水素類や芳香族炭化水素類に塩素が結合したもので、比較的高い容量で、近位尿細管細胞を損傷して腎毒性を発現するといわれています。
中毒事例としては、四塩化炭素による近位尿細管壊死の事例が代表的です。高濃度ガスの吸入により生じた急性中毒事例では、乏尿・時に無尿、血清クレアチニン上昇、尿素窒素の上昇がみられ、死亡例では腎壊死(近位尿細管壊死)が見られるとされています。
ほかに、トルエンを主成分としたシンナーの常用者における尿細管機能障害事例、低濃度二硫化炭素による長期暴露においては細血管障害が知られていますが、腎糸球体にも同様の変化から腎硬化症様の病変を呈し、また糖代謝異常も起こり、糖尿が見られることがあります。
有機溶剤一般の慢性暴露の結果として、軽度の尿細管機能障害の事例、糸球体基底膜抗体をもった原発性急性進行性糸球体腎炎との関連の指摘もあるとされています。
中毒時の症状としては、急性の腎尿細管性アシドーシスを呈し、電解質異常による疲労感や脱力を出現することがありますが、そうした場合、暴露濃度が高いことから急性中枢神経系症状を伴っているといわれます。
なお、慢性の尿細管機能障害の場合は無症候性です。
特殊健康診断で異常が見つかったからといって、全てが業務が原因とは限りません。業務よりも日常の体調や作業と無関係の疾患が原因の場合もあります。
ただ、有機溶剤で悪化する可能性がないとはいえません。また、作業の状況が原因ならば、同じ作業をしている方にも近々同じ症状が出る可能性があります。
したがいまして、発症している腎障害が当該有機溶剤に起因すると考えるためには、
- 業務により当該物質を利用して暴露した可能性があるかどうか?
- 暴露した有機溶剤が腎機能障害を発症するものであるか?
(※当該物質のMSDSなどで確認できます) - 医学的に見て当該有害因子によって引き起こされる疾病が症状、病態、経過などにおいてその特徴を備えているか?
などを検討する必要があります。
このためには、作業の状況(作業環境中の有機溶剤濃度測定の結果、作業場の換気状況、保護具の使用状況、局所排気装置の稼動状況、作業時間の長さや作業頻度等)や生物学的モニタリング結果を確認し、当該物質が、腎機能障害を起こす可能性のある濃度で作業者に暴露したかどうかをチェックする必要もあります。
また有機溶剤による中毒の場合は、脂溶性の性質により腎障害よりも先行して、皮膚障害や中枢神経障害(麻酔様症状)などをおこす危険が高いものが多いことから、これらの点が経過や症状の観点で矛盾していないか検討する必要があると思われます。
従業員の睡眠時無呼吸症候群(SAS)対策の実施を計画中(対象1,000人)です。運転業務や夜勤に従事する職員が多いというのがその理由です。
しかし、SASの疑いがでた方について、配置転換等が行われ、その方は不利益をこうむる可能性があります。希望者への実施も考えていますがご指導願います。
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SAS対策の必要性としては、
- 個人の健康管理上の観点
該当者は、高血圧症、脳心臓血管障害、生活習慣病等の有病率が明らかに高くメンタル不全を来すことが分かっています。またそのQol低下も問題になっています。 - 交通事故リスクが明らかに高いこと
- 事業者の安全(健康)配慮義務の観点
- 対職員へは安衛法第3条の事業者責任、民法第415条の労働起因性による健康障害予防債務の不履行
- 社会・公共への安全担保、社会的責任(CSR)の観点
事業者がCSRの一環と考えるのであれば、事業主が明確にその旨を宣言し、組織が一致団結して計画を遂行する必要があります。
等のリスク・マネージメントとして実施される必要性があると思われます。
また、改正道路交通法・令においても、運転免許の欠格事項の1つであり、申請・更新についても同様です。
次に、SASと配置転換、事後措置等についてですが、相談の趣旨は、事後措置の取り扱いだと思いますので、その点について述べます。
1,000人の職員に実施されるのは、簡易パルスオキシメーターと問診票によるスクリーニングと思われます。結果受領後の措置については、職場等の背景により一律ではなく、組織の方針によるところが多いと思われますので、一例として申しあげます。
経験則上、基本的に、希望者では殆ど検査を希望されないと予測されます。そもそも個人情報の取得に関してはその利用目的を明らかにする必要があります。
検査の目的を明らかにし、次に安全衛生委員会などで労使の審議が必要になると思います。その際、産業医も上記の目的と実施について医学的な意見をのべ、計画に参画することになります。
また、配置転換については、実際にはあまりないのではないかと想像しますが、どうしてもやむをえない場合もあるかとは思います。しかし上記のように決定されていれば、配置転換についても問題は生じないでしょう。
基本的には、重症SASについてはC-PAP治療がうまく使用され励行できれば、就業配慮は必要かもしれないものの、殆ど通常の職員と同等の作業は可能と思われます。
ただ、簡易パルスの結果→PSG、C-PAP導入から有効性の確認までのタイムラグについては、就業制限をするのか、どの様に対応するのか、取り扱いを決めておく必要があると思います。
その他、マウスピース、耳鼻科的措置の必要性有効性の確認、減量、生活指導(特に睡眠時間の確保、神経作動薬物使用への注意(睡眠薬 安定剤 抗アレルギー薬等の使用)等の事後指導はSAS全例が対象になってきます。
【参考】
2007年4月に開催された産業衛生学会において報告された、東京メトロ運転士のSAS検査の結果では、1,240人中87人(7.0%)にSASを認め、要治療は72人(5.8%)であった事を報告しています。
私の経験からは対象者の年齢にもよりますが、選別基準を厳しくした場合、10%弱位が精密検査対象者になるのではないかと思われます。
トルエンを取り扱っている作業者がおり、有機溶剤健診において尿中馬尿酸検査を行っていますが、1人だけ再検査をしても分布2の異常値が出てしまいました。
職場環境は良好で、他の作業者には異常はありません。
原因がわからないので、安息香酸を控えてもらい、再検査をしようと考えています。安息香酸が含まれている食品のリストがわかりましたら教えて頂けますでしょうか。
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トルエンを使用する労働者の特殊健康診断では尿中の馬尿酸量を測定します。馬尿酸は、有機溶剤のトルエンの尿中代謝物として、特殊健康診断での測定項目のひとつになっています。
しかし、前日などに安息香酸塩などが含まれている食品を摂取すると、トルエン曝露同様に尿中の馬尿酸が増加するので、ばく露状況を正確に評価するために、食品等の影響を最小限にする必要があります。
安息香酸又は安息香酸塩は防腐保存料として使用されていている添加物です。食品衛生法の添加物使用基準では、キャビア・マーガリン・清涼飲料水・シロップ及び醤油以外の食品に使用してはならないとなっていますが、食品中に自然に由来するものが含まれることがあります。
特にクランベリー、キウイフルーツ、ブルーベリーなどの果物の中にも含まれています。従いまして、完全に食品由来の安息香酸を制限することは難しいと考えますが、半減期を考えると、前日から気をつければよいので、これらの食品を制限してもらうしかないでしょう。
なお参考までに、馬尿酸値以外にトルエンに暴露しているかどうか証明する方法は、次の2つが考えられます。
一つは、血中(尿中ではなく)トルエンを測定する方法です。
次にパッシブサンプラーを用いた測定を行う方法です。パッシブサンプラーは、ガスの拡散現象を利用して活性炭に捕集するもので、吸引ポンプやバッテリーを不要とし、労働者の胸元などに装着することにより、個人ばく露濃度を測定することが出来ます。
仮にトルエンばく露が認められたとして、その原因には得てして作業管理上の問題点が認められることがあります。例えば、保護具を適切に使用していないケースとして、トルエンを直接手で扱ったり、透過性のある手袋を使用したりすると、皮膚から吸収している可能性があります。
また、作業員が局所排気装置と発生源の間に入って作業するなど、作業位置・姿勢に問題があるケースも認められます。
こうした作業方法・手順の問題をチェックするのも一つの方法です。
騒音性難聴は、4kHzdipがあるかないかで判断できますか。
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4kHzdipは、難聴の初期に見られるものです。 騒音職場に永年いた従業員に4kHzdipが見られれば、騒音性難聴の初期と診断します。 ある程度進行した経年変化には、もうこうしたdip像は見られません。低音から高音にかけて聴力低下がみられます。 また、初期の感音難聴に4kHzdipがあっても、それだけで騒音性難聴とはみなしません。騒音職場にいたかどうかが分かれ目になります。