主任研究者
茨城産業保健推進センター基幹相談員
筑波大学大学院人間総合科学研究科 講師 笹原 信一朗
共同研究者
筑波大学大学院人間総合科学研究科 助教 吉野 聡
日本原子力研究開発機構 産業医 友常 祐介
(株) ツムラ茨城工場 産業医 梅田 忠敬
高エネルギー加速器研究機構 産業医 大井 雄一
産業技術総合研究所 産業医 羽岡 健史
産業技術総合研究所 産業医 商 真哲

1.はじめに

 近年、労働者のメンタルへルスを取り巻く状況は悪化傾向にあり、事業場におけるメンタルヘルス不調者の増加が社会的問題として取り上げられている。メンタルヘルス不調に伴う病気休業においては、療養期間の長さおよび、再休業の割合が高いことが問題とされている。また、取得可能な休業期間、休業を繰り返した際の休業期間の積算の仕組み、傷病手当金以外の金銭的補償制度については、事業場によって様々である。また、段階的職場復帰についても、どのような制度が最適であるかといった検討はまだなされていない。そこで、今回メンタルヘルス不調に伴う就業規則や職場復帰制度とメンタルヘルス不調の労働者の状況に関する情報を収集するとともに、文献的調査によって、気分障害を中心とした精神障害の平均的な寛解期間についても検討し、両者から得られた知見を総合的に考察することによって、労使双方にとって最適な就業規則や職場復帰支援制度について検討することを目的に本調査を実施した。

2.調査方法

調査1:文献的考察
 Medline、医中誌データベース等において、2010年4月時点における国内外の気分障害の再燃と寛解維持の期間について検討されているレビュー文献を収集し、メンタルヘルス不調、特に気分障害における経過について検討する。
調査2:実態調査
調査対象:茨城産業保健推進センター利用歴のある150ヶ所の事業場
解析:就業規則や職場復帰制度とメンタルヘルス不調に陥った労働者の状況に関するアンケート調査を実施し、得られたデータを解析する。

3.結果と考察

文献レビューの結果によると、気分障害は、服薬尊守のうえ治療を継続している場合、治療反応が最高レベルに達してから4ヶ月たった時点での再発率は10~20%と低く、かつ再発する場合の平均期間は19ヶ月であった。
文献レビューの結果を以下の図にまとめた。(図1)
>>図1に関する注意書き
その後の研究で改訂されています。
詳細は、”うつ病の増加に伴う病気休暇ならびに病気休職期間と金銭補償期間との関連に関する予備的研究~労使双方により良い休職制度を目指して~、体力・栄養・免疫学雑誌、22(2)、74-81頁、2012”をご参照ください。

図1

文献レビューの結果をふまえると、労働者においては、内服を継続していれば、復職後6ヶ月以内での再燃はほとんどないと考えられる。したがって、復職後にこれまでの休職期間の積算をリセットする期間としては、6ヶ月から1年程度の間が妥当であると考えられた。実態調査によると、98.1%の事業場が何らかの形で休業制度を設けているものの、取得可能な休業期間については制限を設けており、常勤職員数の多い事業場の方が取得可能な休業期間が有意に長かった。(図2)

休業期間中に傷病手当金以外に金銭的補償がある期間を設定している事業場では、常勤職員数の多い事業場の方が金銭的補償期間は有意に長かった。(図3)


 
 
このように規模の大きな事業場の方が、休職者に対する手厚い制度が整備されていた。復職に関する制度については、8割以上の事業場で休職期間中のリハビリ勤務や段階的復職制度といった職場復帰プログラムを設定していた。(表1)

再休職時にこれまでの休業間が合算されるかについては、合算される19.2%、合算されない23.1%、復職後の出勤機期間により決定されるが57.7%であった。(表2)



 
また、再休職の際にこれまでの休職期間が合算されなくなる期間については、文献的レビューによる知見から望ましいと思われた6ヶ月から1年と設定している事業場は、期間を設定している事業場の46.67%である一方で6ヶ月未満と設定している事業場も半数を占めており、今後、復職制度の見直しが望まれる。労働安全衛生法で常勤産業医の選任義務のある常勤者数1000人以上の事業場を対象に行った解析では、病気休業の発生頻度や継続期間は金銭的に補償される期間と有意に関係を認めた。(図3、図4)

つまり、労働者の休職・復職を規定する要因には、金銭的補償をはじめとする経済的要因も関連している可能性が示唆された。休職の必要性を判断する際に、経済的要因の影響が強くなると対応が遅れたり、復職に際しては病状、職務遂行能力の改善が不十分な状態で復職せざるを得ない状況も生じうる。その一方で過度の金銭補償期間は復職に対する意欲を減退させたり、非休職者のモチベーションを低下させる可能性もあり、最適な金銭的補償期間については慎重に検討していく必要性があると考えられた。

報告書全文・PDF

調査研究