宴会で羽目を外し女性の尻をさわる/セクハラで会社の責任も

産保亭扇太

――― 横丁のご隠居さん人情相談 労務管理編 第4回
越後屋 「ご隠居さん、いらっしゃいますか」
ご隠居  「おや、越後屋さん。めずらしね。あなたが来るようでは、何か困ったことでも起きたのですね」
越後屋 「さすがご隠居さん、お見通しです。実は、店の女性店員から、番頭の徳兵衛がセクハラをしたという訴えがありました。話を聞くと、徳兵衛は、新年会の宴席で彼女のお尻を触ったとか。しかし、飲んだ席でのことです。そんなことで目くじらを立てるのも何かと思いますが」
ご隠居 「なるほど。番頭の徳兵衛さんとしては、大いに飲みすぎたということですね」
越後屋 「そうなんです。徳兵衛も、羽目を外しすぎたと反省しています」
ご隠居 「セクシャル・ハラスメントとは性的いやがらせのことをいいます。具体的には、職場で行われる性的な言動により働く女性が不利益を受け、または就業環境が害されことで、女性の勤労意欲を低下させたり、苦痛を感じて仕事が手につかなくなったりすることが問題だとされています。ことによっては、退職に繋がるということもありますから、重大な労働権の侵害ということもできますね」
越後屋 「ほう。それは大変なことです」
ご隠居 「そうです。ですから番頭さんが、どのような意図でそうしたことをしたかにかかわらず、相手が性的な行為であると受け止め、それによって不快感、差別感、脅威・屈辱感を受けた場合は、セクハラ行為があったとみなされます」
越後屋 「それじゃあ、宴会で、女性店員をカラオケのデュエットに誘うのもセクハラになるっていうことですか?」
ご隠居 「そういうこともあります。つまり、デュエットを誘われた方の感覚で判断されますから、無理強いは慎まなければなりませんね」
越後屋 「でも番頭の行為は、職場の問題ではなく男女の問題とは考えられませんか」
ご隠居 「そうですか?番頭さんという地位、権限、影響力等を利用したとなると、きわめて悪質だと考えられませんか。上司と部下など、いわゆる上下関係にある場合、被害者は仕返しを恐れてはっきりと拒否できないことも予想されますからね」
越後屋 「わかりました。しかし、仕事が終わった後のことでも、店の責任になりますか?」
ご隠居 「はい。セクハラ行為と業務との間に関連性が認められる場合には、当然使用者責任を負います。そうした関連性が認められない場合であっても、使用者には従業員が働きやすい職場環境を保つ労働契約上の付随義務があるので、これを怠った場合、使用者に債務不履行責任があるとされます」
越後屋 「なるほど、わかりました。帰って、番頭によっ~く言って聞かせます」
ご隠居 「ところで越後屋さん。あなたこそ、大丈夫ですか」
越後屋 「ご冗談を。私はお尻は触りません。敷かれるものです。」

おあとがよろしいようで