健康診断について (7)

茨城産業保健総合支援センター
健康診断について (6) からのつづき

(5) 石綿健康診断(石綿則第40条) 

石綿(アスベスト)は、天然に産する繊維状ケイ酸塩鉱物で、「せきめん」「いしわた」と呼ばれています。その繊維が細く、布状や糸状に加工しやすく安価であるため産業の場で多用されてきましたが、近年、吸入暴露により健康被害がクローズアップされてきました。
石綿障害予防規則では、石綿による肺ガン、中皮腫等の健康障害を早期に発見するため、事業者に対し、石綿(アスベスト)製品を製造したり取り扱う業務に、常時、従事させているまたは従事させたことがある在籍労働者*に対して、雇い入れの際、当該業務に配置替えの際及びその後6月以内ごとに1回、定期に下記の項目の健康診断を実施するように義務づけています。
*退職者は石綿障害予防規則における健康診断の対象ではありませんが、これまでの我が国での石綿の使用状況等から、石綿による健康被害の増加が懸念されますので、国では、事業者に対して、対象となる退職者を把握し、当該退職者に対して速やかに健康診断を実施するよう求めています。

○健康診断項目
  • 一次健康診断
    1. 業務の経歴の検査
    2. 石綿によるせき、たん、息切れ、胸痛等の他覚症状または自覚症状の既往歴の有無の検査
    3. せき、たん、息切れ、胸痛等の他覚症状または自覚症状の有無の検査
    4. 胸部のエックス線直接撮影による検査
  • 二次健康診断
    1. 作業条件の調査
    2. 胸部のエックス線直接撮影による検査の結果、異常な陰影がある場合で、医師が必要と認めるときは、特殊なエックス線撮影による検査(ヘリカルCT等)、喀痰の細胞診、気管支検査
○健康診断結果の記録

事業者は、石綿健康師団の結果に基づき石綿健康診断個人票(様式第2号)を作成し、常時当該業務に従事しないこととなった日から40年間保存しなければなりません。
また石綿健康診断(定期の物に限る)を行った場合には、遅滞なく石綿健康診断結果報告書(様式第3号)を所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。

○石綿製品、石綿取り扱い作業の例について

厚生労働省は、ホームページで石綿に暴露する恐れがある作業例、石綿製品例について写真入りで解説しています。
ここに掲載している例がすべてと言うことではありませんが、石綿に関する疾病は、石綿に暴露してから発症までの期間が非常に長いため、作業の記憶が定かでなかったり、また本人自身に暴露の自覚がない場合もありますので、労働者の職歴を判断する上で、非常に参考になります。
詳しくは、厚生労働省のサイトをご覧ください

(6) 高気圧業務健康診断(高気圧作業安全衛生規則第38条)

高圧室内業務または潜水業務など高気圧作業*に従事する労働者に対しては、雇い入れの際、当該業務に配置替えの際及びその後6ヶ月ごとに1回、定期に以下のの健康診断を実施しなければなりません。
また、健康診断の結果を記録し、これを5年間保存するとともに、高気圧業務健康診断結果報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。
*高気圧作業とは、潜函工法その他の圧気工法により、大気圧を超える気圧下の作業室またはシャフト内部において行う作業のことをいいます。

○健康診断項目
  • 一次検査
    1. 既往歴及び高気圧業務の調査
    2. 関節、腰もしくは下肢の痛み、耳鳴り等の自覚症状または他覚症状の有無の調査
    3. 四肢の運動機能の検査
    4. 鼓膜及び聴力の検査
    5. 血圧測定並びに尿糖及び尿蛋白の検査
    6. 肺活量の測定
  • 二次検査
    (上記の検査の結果、医師が必要であると認めたときに実施しなければならない項目)

    1. 作業条件調査
    2. 肺換気機能検査
    3. 心電図検査
    4. 関節部のX線直接撮影による調査

(7) 歯科医師による健康診断(安全衛生規則第48条)

酸は製造業における代表的な使用物質であり、酸を使用する事業場においては、古くから歯牙酸蝕症の発生が指摘されています

このため事業者は、歯またはその支持組織に有害な下記(表の左欄)のガス、蒸気、または粉じんを発散する場所における業務に常時従事する労働者に対し、雇い入れの際、業務に就いた後6月以内ごとに1回、定期に、歯科医師による健康診断行わなければなりません。

【歯またはその支持組織に有害な物と健康障害】
有害物質 健康障害
・塩酸・硝酸・硫酸・亜硫酸 歯牙酸蝕症
・フッ化水素 歯の変色(腐食)
・黄リン 顎骨壊疽

なお、歯科健康診断については、検査項目及び健康診断個人票について、法令上の定めがありませんので、事業場に適したものを作成されてかまいませんが、不明な点がありましたらお問い合わせください。


【石綿健康管理手帳】

がんその他の重度の健康障害を発生させるおそれのある業務に従事し、かつ一定の要件に該当する退職労働者について、退職後の健康管理のため、離職の際または離職の後に所在地の都道府県労働局長に申請することにより、健康管理手帳が交付されます。
健康管理手帳の交付を受けると指定された医療機関または健康診断機関で、定められた項目による健康診断を決まった時期に年に2回(じん肺の健康管理手帳については年に1回)無料で受けることができます。
石綿業務についても、石綿製品の製造工程における作業、石綿の吹きつけ作業、石綿が使用されている建築物等の解体等の作業、石綿製品の切断等の加工作業など、石綿(これらをその重量の0.1パーセントを超えて含有する製剤その他のものを含む)を製造し、または取り扱う業務に従事したことがある労働者で、検査等の結果、両肺野に石綿による不整形陰影があり、または石綿による胸膜肥厚の陰影があること*が認められた者には健康管理手帳が交付され、労働局が指定した医療機関等で、石綿健康診断を年に2回、無料で受けることができます。
また、石綿取り扱い等の業務に従事し、じん肺管理区分2または3の決定を受けている場合にも、粉じん作業に関する健康管理手帳が交付されます。

[注意] 健康管理手帳の交付要件について、本年10月1日以降は、石綿による不整形陰影があるといった医学的要件を満たす方のほかに、一定年数以上の業務従事歴がある方にも健康管理手帳が交付されるようになる予定です。


次回は、行政指導によって実施するよう示されている健康診断について説明します。