7・8月は熱中症が多発!

茨城産業保健推進センター 副所長 野口 清
(さんぽいばらき 第32号/2008年7月発行)

熱中症対策は、こまめな休憩と十分な水分及び塩分の補給

過去10年間(平成10年~19年)での熱中症による死亡災害は186件ありました。
この期間の推移をみると、毎年20名前後の死亡災害が発生しており、平成19年においても18件の死亡災害が発生しました。

熱中症発生件数(年別)

 

熱中症とは~重篤な場合は死に至ることも~

熱中症とは、高温高湿環境下での労働や肉体的な負荷によって、体内の筋肉から大量の熱を発するなどして体温調節や循環機能が障害を受けたり、水分塩分代謝の平衡が著しい失調を来たしたりして、作業遂行が困難又は不能に陥った常態を総称します。病態生理学的には、下記のとおり、熱射病、熱けいれん、熱虚脱及び熱疲はいに分類されます。

    表 熱中症の種類と発症時の措置
熱中症の種類
(原因)
症状の特徴 発症時(救急車がくるまで)の措置
熱射病
(体温調節機構の失調、体温又は脳温の上昇を伴う中枢神経障害が原因。
熱中症の中では致命率が高く、緊急の治療を要する)
高体温となり、汗が出ない。
応答が鈍くなり、言動がおかしくなる。突然意識障害に陥ることも多い。
発病前に、めまい、悪心、頭痛、耳なりなどがみられ、嘔吐を伴う場合もある。 
全身に冷水を掛けて風を送るなど身体を冷やす。
氷やアイスパックがあれば、首、わきの下などを冷やす。
熱けいれん
(大量の発汗による塩分喪失に対して、これを補給しなかったことによって起こる) 
筋肉の痛みを伴う痙攣(けいれん)であり、足や腕、腹部などに起こる 熱射病の処置に加え、薄めたスポーツドリンクなど塩分のバランスがよく電解質の加わった飲み物を補給する。
熱虚脱
(高温暴露が継続し、血管の拡張により血圧が低下して起こる)
倦怠感、脱力感、めまい、失神、顔面蒼白などの症状が見られる。 涼しい場所で足を高く上げて寝かせ、手足の先から中心部に向けてマッサージを行う。
吐き気がなければ水分を取らせる。
熱疲労
(脱水による症状) 
めまい、頭痛、脱力感、吐き気など。
大量の発汗で皮膚は冷たく湿っている。血圧の異常を見ないのが普通。
上記の「熱虚脱」と同じ

 

発生は7、8月に集中

過去3年間(平成17~19年)の月別の死亡災害発生状況をみると、熱中症は7月と8月に集中して発生していますが、5月や6月に発生したケースもあります。
高温環境下に作業者が順化していないことなどが原因として考えられ、発生が集中する時期はもちろん、その前後の時期においても熱中症の予防対策が求められます。

月別熱中症発生件数(H17~H19)

月別熱中症発生件数(H17~H19)

作業開始から数日間での発生がほとんど

平成17年から19年まで58件の被災状況を見ると、作業開始から数日間での発生がほとんどで、特に初日に13件、2日目に20件が発生しています。高温環境下で作業を行う場合は、作業開始前の安全衛生教育、体調の確認、事前の予防対策を確認することが不可欠です。

熱中症発生件数(日別)

熱中症発生件数(日別)

 

 

熱中症対策として必要なこと

熱中症対策を幾つか列挙しました。

  1. 被災状況をみると、午後2時から5時の間に多発しているので、気温が上昇している時間帯での作業では、作業中のこまめな休憩と十分な水分及び塩分の補給を必ず行わせること。特に、水分だけでなく塩分の補給も大切であることを作業者に教育しておくこと。
  2. 屋外等で作業を行うにあたってはあらかじめ、日除けや通風をよくするための設備を設置し、涼しい場所に休憩場所を確保すること。
    また、できるだけ熱輻射を反射するような白い作業服や保護帽を着用すること。
  3. 就労開始から数日の間での発生がほとんどであることから、あらかじめ作業者全員に熱中症等に関する知識を付与すること。
    また管理者は、安全衛生教育の実施状況、体調の確認及び作業開始後の予防対策の実施状況の確認を行うこと。
  4. 一人作業で罹患し、発見が遅れる事例が多く見られることから、作業中のこまめな巡視と作業者の健康状態の確認を行うこと。
  5. 作業当日の天気予報等により、気温、湿度等の上昇が予想される場合は、休憩時間を頻繁にとるなど随時作業計画を見直し、気象状態、作業者の健康状態に考慮した作業を行わせること。
  6. 熱中症と疑われる症状が現れていても、関係者の認識不足等から、症状が悪化してはじめて病院へ搬送する例が多く認めらので、熱中症の症状が見られた場合、軽いと思われる場合であっても、直ちに医師の治療を受けさせること。発症時(救急車がくるまで)の措置としては上記表の右欄に留意すること。
作業場に準備しておくと便利なもの

冷却剤(氷嚢、アイスパックなどと、冷水を作るために十分な量の氷)
送風器具(うちわ、扇風機のようなものでも可)
水(可能ならばその中に水を入れておく)
痙攣(ケイレン)の対処用に、塩分濃度0.9%の飲み物(例:生理食塩水)
冷やしたスポーツドリンク
病院の電話番号(現場から、すぐに救急車を呼べるようにするため)

《参考》 厚生労働省 熱中症による死亡災害発生状況