職場環境での健康リスク要因を考える

平間病院 院長/茨城県医師会 理事
平間 敬文
(さんぽいばらき 第27号/2006年11月発行)


改正労働安全衛生法やいくつかの通達によって、産業保健の分野では従来の腰痛や作業環境問題、化学物質の扱い等の問題に加え、メンタルへルスや過重労働といった課題への幅広い対応が求められている。これからは事業者、労働者が産業医に対してより専門医的な知識と職務遂行能力を求めてくることが予想される。それぞれが持つ臨床医学能力を基盤に最新の産業医学的知見を加えた質の高い産業医活動が期待されるであろう。
他方、産業医を選任すべきでありながらしていない臓場が多数あるのも実態であり、職場間の格差が広がっている印象を持っている。安全衛生委員会も機能せず従来からの課題の解決を先送りされている職場も多く、そのような現場を担当することの多い嘱託産業医としては悩ましい問題である。時間的な制限も多く困難ではあるが、現状に即しプライオリティーを掴んだ対応が望まれる。
私達は健康を保持しながら安心して働ける職場が形成されているか否かを注意深く評価していかなければならないが、職場環境での健康リスク要因の中では夕バコが最大のものであると考えている。このことについては、ガイドラインが作成されているものの、事業者、労働者、加えて産業医の危機意識までが今なお極めて乏しいと感じざるを得ない。少なくとも受動喫煙の被害から非喫煙者を守ることだけは、快適で健康な職場環境を守る最優先の課題と考えてよいであろう。誰にも他人が健康に生きる権利を奪うことなどできるわけがないのだから。
常に副流煙に曝露される職場で働く人々 のがんによる過剰死亡は、1.6倍と言われる。たかが1.6倍とお思いかも知れないが、これは広島原爆を爆心地から2.5kmで被爆したのと同じリスクである。30分間受動喫煙にさらされるだけで、血小板凝集能の異常は常習喫煙者と変わらないダメージとなる。甘い話ではない。
この問題は、職場においてはトップダウンが特別に効果的であるという特徴を持つ。そしてトップに対して強い姿勢で非喫煙者を受動喫煙のリスクから解放することを迫る責任と地位を担っているのがまさに産業医であり、タバコ対策の遅れの甚だしい日本においては早急に解決せねばならない喫緊の課題であると考えている。産業医の指導力に大きく期待したい。