「産業医活動の難しさ」

北関東ブロック共同企画<産業医の活動>…群馬

館林市邑楽郡医師会
産業保健担当理事 黛 卓爾
(さんぽいばらき 第28号/2007年3月発行)

私は現在5社の産業医、及び当医師会の地域産業保健センター事業で3社の産業医を担当している。産業医としては約20年の経験があるが、医者の社会的常識のなさをまざまざ実感することが多い。それぞれの会社は全く同じ職場形態ではない。これらの会社で産業医活動を行うためには、まず会社の事業内容、職場形態等を良く理解しなければならない。
初めて会社を訪問したときには、産業医に対応してくれる担当者を決めてもらわなくてはならない。この人に会社を案内してもらって会社の事業内容を理解するには最低でも1年はかかる。この間毎月1回は会社を訪問して職場を巡回し、私が産業医であることを理解してもらう。担当している会社は、カーステレオの設計試作、冷凍機の銅管加工、親会社の下請けで十数ヶ所に作業所のある会社、人材派遣業等様々である。
従業員のコンピューター画面をのぞき込んで、先生は産業スパイではないでしょうねなどと声がかかれば仲間として認められたと考えてよい。私は安全衛生委員会に出席したときには常に会社は安全第一を考えてください、産業医は従業員の健康第一を考えます、と言うことにしている。皆高度の技術を持ち複雑な機械を操っている、どこに危険が隠されているか、わたし如き医者が解るはずはない。有機溶媒を使っている会社がある。本にはこの有機溶媒が非常に危険であることが記されている。しかし実際この薬品を扱っている職場の人の方が私以上にこの薬品の怖さを知っていたので安心したことがある。一人で巡回することもある。従業員が挨拶してくれるようになると、彼らが私を自分たちの仲間として認めてもらったと考えている。これくらいになると私が巡回の後に行っている健康相談に応じてくれる人も出てくる。時には私の医院を受診してくれる人も出てくる。実際産業医活動は真面目に担当すれば医院経営のメリットとなることが多いと考えて良い。
最も悩んでいる会社は人材派遣業である。この会社に行っても社員は数人しかいない。従業員は全て他の会社に派遣されている。職場巡視が出来ない。健康診査は出向先で行ってくれることもある。検診を受けていない人もいる。ただ給与の問題からか残業時間はきちんと把握しているので大いに助かる。残業時間が100時間を超える人は必ず産業医に会わせてくれるように話してある。また担当している会社の従業員の中に人材派遣業の会社から派遣された外国人労働者が多いのがこの地区の特徴である。最近これらの従業員に対しての健康診査は受け入れ先で行ってくれるようお願いして、実現してきている。
しかし地域産業保健センター事業で対応している従業員50人未満の小規模事業所の中には年1回の健康審査を行っていないところもあり、外国人従業員の中には社会保険にも、国民健康保険にも加入していない人もいて、健康管理上問題は多い。