「個人情報保護法と健康診断情報の扱い」~ある産業医の対応~

(株)日立製作所 水戸健康管理センタ
主任医長・産業医 中谷 敦
(さんぽいばらき 第28号/2007年3月発行)

【問題提起】

個人情報保護法が施行されて、従業員から人間ドックの結果を会社に提出することは問題ではないかと質問がありました。産業医としてどの様に考えて対応すればよいでしょうか?個人情報保護法に沿って、考えてみました。
個人情報保護法では、先ず情報の利用目的を明らかにするよう謳っています。では事業所における健康情報の利用目的は一体なんでしょうか?これには産業保健活動の目的を見つめ直すことが必要です。さまざまな意見がありますが、産業保健活動の最も基本的な目的は、人と仕事の適合を測ることにあると考えられます。
労働安全衛生法ではこのことを健康診断の実施後の措置(66条の5第1項)として規定しています。産業医は事業者に対して当該労働者の、「就業区分(通常勤務可・」就業制限・要休業)」と有所見者に対しての「就業制限・適性配置」についての就業に関する意見をのべ、目的を達成するわけです。逆に、実施後の措置を行わない健康診断はその存在意義が無いといえます。
では、健康診断の結果はどのように事業者に集まる(集める)のでしょうか(情報の収集)。このときに、労働安全衛生法に基づいた法定項目とそれ以外の項目に分けて考える必要が出てきます。法定項目は事業者が労働安全衛生法に基づき実施するものなので、労働者が受診した段階で承諾が得られていると考えて差し支えありません*1。ただし、人間ドックなどに含まれる法定外項目については、注意が必要で、使用目的を具体的に明らかにした上で、本人の同意が必要となります*2。例えば、人間ドックの項目にはB型肝炎、C型肝炎の検査が入っています。一般住民に対して肝炎検査を行うことは国からも推奨されていますが、一方で事業所では従業員の肝炎検査を行わないようにも通達*3が出ていますので、どのように本人から同意を取るかが問題となります。(受診の機会を用意するようには指導されています。)
ここで、現行の労働安全衛生法(66条関連)では事業者が健康診断結果そのものを収集できるようにはなっています。しかし、就労の判断を行うためには事業者にとって血圧がどのくらいだとか、血糖値がいくつか、といった具体的な数値又は診断名には全く重要ではなく、逆にこれらの数値や診断名を見たところで適切に就労に関する判断が出来る事業者がいるとも思えません。*2には健康診断結果の数値等(生データー)や疾病の診断名等が知らされる必要はなく、産業医の手によって、事業者が目的を遂行できる最低限の形に加工して伝えればよいと書いてあります。

 

【産業医としての対応】

上記の問題提起をふまえ、私は次の事項を事業所の安全衛生委員会で審議し、実行しました。
結果表の提出先をこれまでの会社総務だったものを産業医にする。
提出の際に、個別に書類上で法定外項目を含めて産業医が見ることに承諾するか署名を求める。場合によっては、人間ドック期間に法定項目のみの結果を打ち出した結果表を付けてもらう。また、産業医が見た情報で就業に関する意見が必要な場合は述べさせてもらうことの承諾を取る。
事業者に対して個人健康診断結果を、就労に関する意見のみに伝えるようにする。


*1 「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取り扱いのためのガイドライン」 平成16年12月24日
*2 「雇用管理に関する個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」 (平成16年10月29日通達)
*3 「職場における肝炎ウイルス感染に関する留意事項について」 基発第1208001号職発第1208001号(平成16年12月)