自殺の現状と産業医の面接強化

茨城県医師会産業医会 常任理事 / 山村医院 院長
茨城産業保健総合支援センター 産業保健相談員
山村 邦男
(さんぽいばらき 第29号/2007年7月発行)

日本は自殺大国といわれ、年間自殺者数3万人越えたまま推移している。H10年失業者が4.2%から4.9%に悪化した時期からであり、人口10万あたりの自殺数は欧米の2倍から3倍になっている。2006年度の総数は32,155人で前年比9,342人であまり増加していない。2006年度の総数は32,155人で前年比397人減、男性が22,813人で7割占め、女性は9,342人であまり増加していない。年代別で60歳以上11,120人(全体の35%)、50歳代7,246人、40歳代5,008人。職業別で無職15,412人、被雇用者8,163人、自営業者3,567人。遺書がある10,446人の原因・動機別では、健康問題4,341人(40%)、経済・生活問題3,010人、家庭問題1,043人。学生・生徒は最悪で886人(前年比25人増)で2年連続800人以上、19歳以下623人、中学生で81人で急増している。

働く職場でも確実に増加、仕事上のストレスによるうつ病などで精神障害になり、2006年度労災認定を受けた人が205人に増加、前年の1.6倍で過去最多になる(過労自殺で認定された人は66人で前年より24人増)。うつ病関連が106人、神経症やストレス関連障害などが99人、職種別ではシステムエンジニアや医療従事者などの専門技術職が60人で最も多く事務職34人、技能職33人。年齢別では働き盛りで負担の集中する30歳代が前年度の39人から83人に急増、全体の4割をしめている。
業種別では過酷な労働条件が社会問題化しているバスやタクシーなどの運輸業が97人と最も多い。過労死は10人減の147人。請求件数は最多で7.9%増の938件である。しかし、これらの数も自殺者の数から考えれば氷山の一角であり、自殺せずに思いとどまった人の数を入れれば根は極めて深く広く日本人の中にはびこっていると思う。
職場で強いストレスを感じる労働者が60%以上になり、過労死・過労自殺者の増加と最高裁判決による雇用者の安全配慮義務違反などで、労災認定が見直され増加し、職場のメンタルヘルス対策が迫られるようになる。

1987年 THP、1992年 快適職場づくり、2000年事業所における労働者の心の健康づくりのための指針が出され、

  1. セルフケア
  2. ラインによるケア
  3. 産業保健スタッフによるケア
  4. 事業所外資源によるケア

がうちだされた。
しかし、過労死・過労自殺はいっこうに減らず、企業での週40時間労働はあってないものになり、時間外労働が増加するばかりで、さらにサービス残業もあちこちで、おこなわれるようになった。
2005年10月労働安全衛生法一部改正で過重労働に対する歯止めとして、月時間外労働が100時間以上を超える労働者において疲労蓄積があることで、本人の申し出により、心血管系とうつ病等の精神障害疾患のスクリーニングを行うことになる。また2006年労働者の心の健康保持増進のための指針(新メンタルヘルス指針)が出され、法律に基づく指針となり、産業医の職務に面接指導が追加され安全衛生委員会の調査審議事項になる。現在現場は、産業保健スタッフの仕事ばかり増え、それに見合う人員体制がつくられず、今までの予算の範囲でやられているのが現状である。産業医の仕事に、時間外労働者のやみくもな面接ばかり増え、指針に見合う経済面を国が具体的料金で指導しないから、現場は混乱してばかりで、面接強化もしりつぼみになる恐れがある。そもそも今までの指針にしても、どこまでやれたのか、何が悪くてだめで、その後の指針を出したのか、現場の産業医・産業保健看護士の議論をふまえて出しているのか疑問が残る。

偽装雇用や派遣労働がはびこり、そのなかで各企業は過酷な自由競争をしている。負け組にならないため、組織を挙げて取り組み部下にノルマを要求する。そして、強いものはますます強くなる。はたして、これが自由なのか、平等な社会なのか。不安定な非正規雇用が拡大し、若い者の雇用が不安定になり、働いても生活して行くのがやっとの賃金しかもらえない労働者が増えている日本で、日本の労働生産性が低くなるのは当然と思える。その上、もっと安い労働力をアジアから入れようとしている動きはもっと危険である。