NoH感情評価システム(能面テスト)について

筑波大学大学院 人間総合科学研究科 准教授
茨城産業保健総合支援センター 産業保健相談員 佐藤 親次
(さんぽいばらき 第30号/2007年11月発行)

近年、企業人の抑うつが社会的問題となり、自殺者も3 万人を超える時代となっています。そして、企業人に対する精神的不健康の早期発見と適切な介入が重要な課題となっています。これまで、精神健康を測定するツールとしては、「やる気が出ませんか?」「朝起きるのが辛いですか?」「眠れないですか?」等の質問紙による方法が主流となっていました。しかし質問紙に対しては、「どう答えればよいのか」と他者からの評価を気にするあまり、結果を操作・誘導、つまり良い状態に見せようとする心理が働きます。とくに産業現場では、上司への印象や昇進へのさまたげへの懸念から、このような傾向は顕著です。そのような被験者に対しては、精神健康の正しい評価は困難になります。
また、自らのストレスについて自覚することができない方もおられ、そういう方にこそ、抱えているストレスに気づくようにする手立てが求められています。しかしながら現在、カウンセリングや心療内科、精神科の医療現場でも、こうした言葉を用いての質問紙検査が中心に使われています。
メンタルヘルス領域には、身体科(内科、外科等)における体温、血圧に相当するような、疾病の存在を示す客観的なデータがありません。その結果、産業保健師の方々の中には、心身の不調を抱える社員をカウンセリングまたは医療機関に紹介すべきか否かの判断に悩むことが多いかと思われます。

このような状況をふまえ、被験者本人にも気づかれない感情状態を検知することが可能なツールが、大学発ベンチャーとして開発されました。これが、「能面を用いた精神状態評価ツール」です。このツールでは、コンピュータ画面上に表示された能面の感情を約15 分間判断するだけで、ただちに結果がコンピュータ画面上に、被験者本人用のコメントというかたちで表示されます。日本独特の芸術作品でもある能面は、見る人によって「悲しんでいる」「喜んでいる」「怒っている」等と感じられる表情を無数に持つといわれています。私達は、この微妙に変化する能面画像をコンピュータに取り込み、このシステムを開発しました。
このツールは、十数年に及ぶ臨床実践と研究の蓄積に基づいて作成されました。
このシステムを利用すれば、体温、血圧測定のような、より客観的なデータを得ることができ、産業保健師、産業医(一般医)の方々の業務がより適切に進むことが期待されます。

<従来のシステムとの相違点>

NoH感情評価システムは、「妥当性の高さ」、「設置・施行の簡便さ」、「応用範囲の広さ」などに加え、従来の心理テストにおいて問題とされていた点も克服している。いかにこれまで使われてきたテストの主な欠点と併せて挙げる。

 
従来の心理テスト NoH感情評価システム
  1. 抑うつスケールのほとんどでは、被験者がうつ病であるかないか、その結果を意識的に誘導できる。
  1. 被験者が主体となって行うテストであるため、特定の結果へ意識的に誘導することは困難である。
  1. 被験者の人格や精神状態について妥当性が高いと言われるロールシャッハテストにおいても、解釈は評価者によってまちまちである。
  1. 測定結果の評価はグラフとスコアを用いて行うので科学的かつ統一的な判定が可能である。また他症例との比較も容易である。
  1. 喜怒哀楽や不安といった感情状態を把握しようとした場合、各感情ごとに心理テストや心理尺度があり、その手間は煩雑である。また従来のテストでは、どの質問にどのように答えればよいかが常識的に判断できるため結果の誘導が可能である
  1. 一種類一回のテストで被験者の感情バランスを測定することが可能である。さらにどの感情に対して肯定的・否定的な反応を示したかにより、健常、器質性疾患、うつ病、抑うつ傾向などの「あたり」をつけることができる。
  1. 繰り返し施行することにより、どのようなテストであっても慣れや練習効果が現れる。
  1. 客観的なデータの蓄積ができるため、繰り返し施行することでより精度の高い測定、あるいは経時的な感情変化の測定が可能となった。
  1. 会話による交流を把握することは可能であるが、非言語的なコミュニケーション能力やその特性(場を読む、相手の心情を察するなど)の判断は困難である。
  1. 表情認知という、言語を伴わずかつ社会的に必要とされる対人能力を測定できる。

 <NoH感情評価システムの広がり>

図 多次元尺度法による健常群と非健常群の能面表情に対する反応プロット(次元1、次元2) d10:上向き10度、u30:下向き30度、front:正面

図 多次元尺度法による健常群と非健常群の能面表情に対する反応プロット
(次元1、次元2)
d10:上向き10度、u30:下向き30度、front:正面

 

<NoH感情評価システムの特徴>

エントリー画面

能面 評価画面 線画 評価画面
能面 評価画面1 線画 評価画面1
能面 評価画面2 線画 評価画面2

評価結果画面

コメント出力画面
コメント出力画面
グラフ出力画面
グラフ出力画面


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