職場復帰支援プログラムについて

キヤノン(株) 宇都宮光学機器事業所 専属産業医 鎌田 郁子
(さんぽいばらき 第31号/2008年3月発行)

はじめに

労働者のメンタルヘルス不全はうつ病を中心に増加傾向と言われていますが、メンタルヘルスでの休職者が増えるにつれ、順調に復職できないケースも増えてきました。
キヤノンには以前から復職判定の制度があり、「復職可」と記載のある診断書が提出された時点で嘱託の精神科産業医、常勤の専属産業医が本人と面談、上司・人事を交え、仕事の範囲・就業制限・職場の状態など鑑みて復職の可否や受け入れ職場と本人の状態を見て復職日を決定し、復職のプロセスとしていました。しかし、休職が長期に及ぶとすぐに全日勤務が困難な場合もあり、復職してもすぐに再休職に入ってしまうケースもあります。
厚生労働省から「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」が2004年に出たこともあり、このようなケースに対応するためキヤノンも自社としての職場復帰支援プログラムを適用しています。以下キヤノンの職場復帰支援プログラムについて述べます。

  • 職場復帰支援プログラムについて:復職準備状態の見極めや休職者の復職への適応支援、職場の受け入れ支援によって円滑な職場復帰を実現することを目的とする
  • 適用開始:主治医からの「復職可能あるいは職場復帰準備をすることが可能」など記載のある診断書が、本にから提出された時点
  • 内容:Step1からStep2は休職中に行う(図1 職場復帰支援プログラム適用の流れ)。休職中の出社途上の事故等に備え国内旅行傷害保険の加入など準備し、また、あくまでも復職に向けての治療支援の立場であることから、労働ではなく賃金の支給はしないことを本人と確認をする(事務手続き担当は人事)。Step3・Step4は正式復職後に行う。各Stepはどこから開始するかは対象者の状態により適用判断する(図2 適用開始Stepの判断ポイント)。また、適応状態を評価し次のStepへ以降可能か産業保健スタッフの面接で本人とも話しながら見極める(図3 各Stepでの評価ポイント)。
図1 職場復帰支援プログラム適用の流れ

図1 職場復帰支援プログラム適用の流れ

宇都宮地区では2004年末から適用開始したが、現在Step2については労働制の問題者受け入れる健康支援室のマンパワーなど、受け入れ体勢の問題もあり縮小している。Step3の復職後半日勤務など推奨し、本人の意向も尊重しながら段階的復職を勧めている。

 

図2 適用開始Stepの判断ポイント
確認項目 Step1から
スタート
Step2から
スタート
Step3から
スタート
Step4から
スタート
1. 生活リズムが安定していない 
2. 8:30に出社することが不安である 
3. 通勤が不安である 
4. 一定時間、集中して作業することが不安である
5. 職場に行くのに少し抵抗がある
6. 職場の受け入れに環境がまだ整っていない 
7. 休業前の業務を行うことに不安がある 
8. 上司とのコミュニケーションに不安
1.~8. に該当しない 

Step1 (出社確認コース)

  • 休職中に崩れてしまった生活リズムの安定を図るとともに、まず会社に出社することだけになれてもらう期間とする
  • 健康支援室に出社(2007年7月に健康管理室から名称変更)
  • 出社時刻は段階的に、始業時刻に間に合うように調整していく

Step2 (軽作業確認コース)

図4 基本プログラム作業チェック表

図4 基本プログラム作業チェック表

  • 軽作業や元の仕事に近い内容の作業を一定期間行うことにより、復職前の職場適応を支援する
  • 作業場所は健康支援室や会議室
  • 職場復帰支援プログラム作業チェック表(図4)を使用して対象者の状況を把握する

Step3 (職場適応確認コース)

図5 職場復帰支援プログラム行動計画表

図5 職場復帰支援プログラム行動計画表

  • 職場における復職後の支援
  • 始業時間は事業所の始業にあわせる。本人と調整し半日勤務あるいは短時間勤務から開始し計画的に通常勤務にしていく
  • 所属長は復職者とのコミュニケーションを十分に図り、復職者が職場に適応し元の状態に戻ることを支援する期間である
  • HRセンターと健康支援室は復職者はもとより、職場で復職者を支援する上司の支援を行う期間でもある(HRセンターとは本社内の相談室)
  • 定期的に以下の確認をする
    1. 本人の出勤状況の確認
    2. 業務の量および質における配慮の確認
  • 職場復帰支援プログラム行動計画表の記入(図5)

Step4 (職場での通常勤務)

  • 就業上の配慮は継続(残業・休日出勤・出張・交代勤務などの制限)
  • 産業保健部門での定期的な面談を行い、本人の適応状況を確認し職場との調整をする

原則は元の職場への復帰ですが、休職理由が人間関係などで環境を変えたほうがよい場合もあり、検討事項のひとつです。復職過程では上司による本人へのサポートも重要で、健康支援室では上司の相談を受け支援も行います。たとえば、復職後の業務量ですが、7割程度を上限に考えること、本人が希望してもしばらくは様子を見るように説明しています。本人はあせりや職場に対して長く休んで申し訳ないという気持ちから、職場復帰後、頑張りすぎる傾向のことがあるからです。
復職の時期も早すぎると休養が十分でないため再発しやすい傾向があります。服薬開始後2週間ぐらいで内服薬が奏功してきます。症状が改善し始めると、本人の責任感や焦りから「会社に行けないわけではないのに、行かなくては申し訳ない」と思う傾向があります。しかし、症状の改善し日常生活が何とか過ごせても、すぐに就業能力まで改善しているわけではありません。十分に休養をとることが順調な復職につながります。主治医には、就業上の配慮するべき事項も記載していただくようにします。

以上キヤノンの職場復帰支援プログラムについて述べましたが、基本の流れであって実際の適用方法はケースバイケースであり、従来どおりの復職方法をとるケースもあります。
重要なのは社員が如何に順調に復職できるか、それを如何に支援するかであり、方法論の一つとして社内で決めておけば、適用しやすいということです。