治療の場と職場復帰までを考える
栃木県精神保健福祉センター 所長
栃木産業保健総合支援センター 相談員
増茂 尚志
(さんぽいばらき 第31号/2008年3月発行)
メンタルヘルス不全のために休職を余儀なくされた方が増加するほど、その方たちの職場復帰の際の対応が問題になります。本稿では、遷延したうつ病の治療経過を提示し、職場復帰に問題となる点について述べます。
【症例】:39歳男性、工学部卒業後、A社に入社、独身でアパート住まい。
X年4月から係長に昇進後、残業が増えたことが契機となり、うつ病を発症。以後休職し、通院で薬物療法を開始した。しかし、独り暮らしのアパートでの療養のため、1年経っても依然意欲、興味関心がわかず、すぐに疲労を感じ、不安と焦りが大きい。主治医が、ある施設のデイケアに依頼し、1年近くデイケア参加をさせた後、職場の復帰訓練に挑戦、何とか職場復帰を果たした。
この症例のように、症状が遷延する場合、しばしば抗うつ剤の量が不足している事があり、高容量の抗うつ剤による薬物療法を試みる必要や、療養環境改善のための入院が望ましい場合がある。しかし、うつ病の方を単科の精神科病院への入院させることは、本人・家族ともに抵抗が大きい。実際、慢性遷延性のうつ病の治療を専門とする病棟は、ほとんどないのが実情である。最近では、徐々にうつ病専門の治療病棟を持つ施設が出来ているが、まだまだ少ない。
多くの症例では1~2年の長期休職の後、どのように職場復帰させるかが大きな問題となる。長い間自宅で療養していた者が、いきなり毎日定刻に出勤すること自体、大きな課題なのである。一旦職場復帰してしまうと、就業時間の短縮や、仕事の分担を著明に減らすことはほとんど不可能であるため、実際に職場に戻る前に、週5日の就業時間に耐えられる生活習慣を確立する必要がある。最近では、障害者職業センターのリワークなどを利用することも可能になったが、扱える人数は、まだ少数である。そこで、一般の精神科施設のデイケアを、うつ病の回復期の人に、もっと利用できないかと期待されるのである。本症例は、最初はデイケア参加も困難なほどであったが、以後段階的に作業時間を増加しつつデイケアを継続。1年経過した頃から活動が増加し、本人の職場復帰の意欲も明確となった。結果敵には、長期間を要したものの職場復帰することができた。
本症例のように、意欲低下と易疲労性が著明な場合は、たとえ職場復帰訓練プログラムは終了できても、実際の就業が容易でなない。「リハビリ出勤」という言葉もあるが、現実には受け入れ困難な職場が多い。これを乗り越えるには、外部の施設をリハビリ的に活用する必要があろう。どこのデイケアでも、本症例のようにリハビリ的な参加を認めてもらえるとはいえないが、今後この症例のような必要性は増えると思われるため、様々な施設への積極的な働きかけが重要であろう。