防じんマスクの選び方・使い方
茨城産業保健総合支援センター 産業保健相談員 木村 菊二
(さんぽいばらき 第32号/2008年7月発行)
Ⅰ 環境対策の原則
環境中に有害な物質があると考えられる場合、その有害と考えられる物質について測定を行い、許容濃度等を参考に、その物質の濃度が健康に対して有害であるか、ないかを調べる。もし、有害であることが認められれば、環境対策を講じなければならない。
対策の第一は、先ず、適切な保護具を着用させることである。
次に、有害物質の発散の防止、飛散の抑制等の工学対策を講ずる。
工学的対策が充分機能して、有害な物質が認められなくなるまで保護具の着用を続け、有害な物質が認められなくなった時点で保護具を外す。
すなわち、環境対策は、保護具の着用に始まり、保護具の着用が不要になった時点で終了する。今回は防じんマスクについて述べる。
Ⅱ 防じんマスク
防じんマスクの規格は労働省の告示によって昭和25年に制定され、同時にこの規格に基づいて型式国家検定が行われ、この検定に合格した防じんマスクには個々のマスクの面体及びろ過材に型式検定合格標章が付けられている。型式検定合格標章を図1に示した。その後、何回か規格改正が行われ、現在の規格は、平成12年、最近の新しい技術と国際的整合性等を視野に入れて検討が加えられ改正されたものである。
Ⅲ 防じんマスクの規格
防じんマスクの種類、面体、試験粒子の規格を表1~3に示した。
試験粒子に液体を加えた理由は、ろ過材の特性によってオイルミスト等を捕集しても吸気抵抗は変化しないで、捕集効率が急激に低下するものがあるからである。
粒子捕集効率、吸気抵抗、排気抵抗に基準を表4にしめした。
種類 | 形状 | |
取替え式防じんマスク | 隔離式防じんマスク | ろ過材、連結管、吸気弁、排気弁、及びしめひもからなる |
直結式防じんマスク | ろ過材、連結管、吸気弁及びしめひもからなる | |
使い捨て式防じんマスク | 一体となったろ過材及び面体並びにしめひもからなる |
種類 | 形状 |
全面形 | 顔面全体を覆うもの |
半面形 | 鼻及び口辺のみを覆うもの |
種類 | 形状 |
固体 記号 S | 塩化ナトリウム(NaCl) 粒度 中央値 0.06~0.1μm |
液体 記号 L | フタル酸ジオクチル(DOP) 粒度 中央値 0.15~0.25μm |
種類 | 粒子捕集効率 | 吸気抵抗 | 排気抵抗 | |
パーセント | パスカル | パスカル | ||
取り替え式 防じんマスク(R) |
RS1、RL1 | 80.0以上 | 70以下 | 70以下 |
RS2、RL2 | 95.0以上 | 80以下 | 70以下 | |
RS3、RL3 | 99.9以上 | 160以下 | 80以下 | |
使い捨て式 防じんマスク(D) |
DS1、DL1 | 80.0以上 | 60以下 (45以下) |
60以下 (45以下) |
DS2、DL2 | 95.0以上 | 70以下 (50以下) |
70以下 (50以下) |
|
DS3、DL3 | 99.9以上 | 150以下 (100以下) |
80以下 (100以下) |
- 注1.吸気抵抗、排気抵抗の( )内は、排気弁がないもの
- 注2.表の中で示した希望は次のようである。
R:取替え式防じんマスク
D:使い捨て式防じんマスク
S:試験粒子がNaCl粒子(固体)
L:試験粒子がDOP粒子(液体)
1:粒子捕集効率が80%以上
2:粒子捕集効率が95%以上
3:粒子捕集効率が99.9%以上 - 注3.DOP粒子によって検定された防じんマスクは、NaCl粒子によって検定された防じんマスクの用途を包括するが、その逆はできない。
なお、使い捨て式防じんマスクには、個々のマスクに使用限度時間が記載されている。
Ⅳ 防じんマスクの選び方
防じんマスクは環境空気中の酸素濃度が18%以上あるところでのみ使用できる。
選択に際しては、型式検定合格品の中から、粉じん等の種類、作業内容、作業強度等の作業条件、作業環境中の粉じん等の発散状況等を考慮して選択する。また、オイルミスト等が混在している場合には、Lタイプを、オイルミスト等が含まれていない場合には、S,Lどちらでもよい。
着用者の顔面に合った防じんマスクを選択する。粒子の捕集効率が高い防じんマスクを着用しても、着用者の顔面と防じんマスクの面体との密着性が悪ければ隙間ができ、その隙間から粉じんがマスク内に侵入して、防じんマスクの効果を低下させてしまう。このため防じんマスクの面体は、着用者の顔面に合った形状と寸法のものを選ばなければならない。
Ⅴ 防じんマスクの着用方法
防じんマスクに付属している取扱説明書にしたがって着用すればよいのであるが、しめひもの種類や形状によって着用の手順は異なる。その一例を図2に示した。
Ⅵ 密着性の試験方法
面体と顔面との密着性を調べる方法には、定性的方法と定量的方とがある。
- 定性的な方法
取替え式防じんマスクについては、防じんマスクの規格で、「・・・面体と顔面との密着性の良否を随時容易に検査できるものであること」と規定している。 密着性の試験は、次に示す方法によって行う。- 作業時と同様に防じんマスクを着用して、面体を顔面に押し付けないようにフィットチェッカー等を用いて吸気口をふさぐ。
- 息を吸って防じんマスクの面体と顔面との接触部位から空気が流入せず、面体が顔面に吸い付くかどうかを確認する。
もし、漏れ込みを感じた場合にはマスクの位置、締め方等を調整して、再度、測定を行なう。なお、漏れ込みがある場合には、面体の大きさや形状の異なるマスクに替えて、再度、試験を行う。
ろ過材が一つのマスクと二つのマスクについて密着性試験をしている様子を図3に示した。
使い捨て式防じんマスクについてはフィットチェッカー等を用いて密着性を試験でき構造になっていない。マスクの取扱説明書に記載されている着用方法を参考に、着用者の顔面の形状と大き
さに合ったマスクを選択する。
- 定量的な方法
定量的に密着性を試験する方法には幾つかの方法があるが、ここでは労研式マスクフィッティングテスターについて述べる。
このテスターは、試験粒子に普通の室内に浮遊している粒径0.3μm以上の粒子を用いる。被験者は試験を行う防じんマスクを着用する。
マスクの内外の空気を密着性試験用ガイドを用いて採取し、その中に含まれる粒子数濃度をパーテクルカウンターによって測定する。得られたマスク内外の粒子数濃度から、粉じんが面体内へ侵入する割合、すなわち侵入率(漏れ率)を求め、その漏れ率の値を表示盤に表示する。
1回の測定に要する時間は約1分間である。なお、テスターおよび試験の風景を図4に示した。
参考までに、現在、市販されている防じんマスクの接顔部の形状の幾つかの例を図5に示した。
Ⅶ 防じんマスクの着用方法の指導による効果
マスクフィッティングテスターを用いて防じんマスクの着用方法の指導を行った。その結果の一例を図6に示した。当初、作業者に着用方法等は指導しないで適宜防じんマスクを着用させて、その漏れ率の測定を行なった。その結果、漏れ率20~30%に近い者もいた。その後、マスクの位置やしめひもの締め方等を調整して、再度、測定した結果、図に示したように漏れ率はかなり減少した。
Ⅷ 防じんマスクの着用に際しての留意点
マスクはきちんと顔につける。粉じん作業現場で防じんマスクを首にぶら下げているのを見かけることがある。 また、マスクが鼻の下までずれている例もあった。
タオル等を当てた上から防じんマスクを付ける、 面体に接顔メリヤスを付けること等は、 粉じんがマスク内に漏れ込むおそれがあるから、これ等を付けてはいけない。
Ⅸ 保守管理の方法及びその留意点
- ろ過材について
作業終了後、ろ過材を固定枠から外して、ろ過材に付着している粉じんの状態を肉眼で点検する。ろ過材を固定した状態が適切であった例と、不適切であった例を図7に示した。
次に、ろ過材に付着した粉じんの除去は次のような方法で行なう。
静電ろ過材は、軽く叩いて付着した粉じんを除去する。 圧縮空気で吹飛ばしたり、水で洗ったりしてはいけない。 圧縮空気でろ過材に付着した粉じんを吹飛ばすと良く除去できるが、 高速の気流によってろ過材を著しく傷めてしまうことがある。 その一例を図8に示した。高速の気流によってろ過材の繊維が著しく起毛して、 捕集効率、吸気抵抗ともに著しく低下している。また、ろ過材を水洗いすると捕集効率が低下する。
なお、ひ素、クロム等の有害性の高い粉じん等に対して使用したろ過材は、1回使用するごとに廃棄しなければならない。 - 排気弁について
固定の状態、老化や変形していないかを調べる。なお、排気弁については、規格に「・・・外力による損傷が生じないように覆い等により保護されていること。」と規定されている、 このため排気弁を見るためには覆い等を取り外さなければならないので、異常が見落とされがちである。
着用していたマスクを調べた結果、極めて良くない二つの例を図9,10に示した。 - 面体について
熱や外力による変形・亀裂等の有無を調べる - しめひもについて
変形や弾力性の低下がないか等をしらべる - 保管について
使用後は、付着した粉じん等を除去するなど適切な手入れをした後、防じんマスク格納箱等にできるだけ清潔に、乾燥した状態で格納しておくことが望ましい。