局所排気装置の設計及び点検・検査の体験談

(株)三菱化学アナリテック つくば分析事業所長
茨城産業保健総合支援センター 産業保健相談員  岩崎 芳明
(さんぽいばらき 第32号/2008年7月発行)

作業場の環境改善に取り組む場合、衛生工学的対策となると多くの場合は、局所排気装置(以下:局排)の設置が行われることと思います。
局排の法律面では、平成20年3月27日の基発0327001号で新たに「プシュプル型換気装置の定期自主検査指針」が定められるなど、新しい動きもあります。
今回は、過去約30年間作業環境測定にたずさわってきた経験から局排の設計と設置後の点検・検査について、経験に基づいた体験談を中心に述べたいと思います。

1.局排の設計

局排を設計する場合は、フード形式の決定、ダクトの設計、圧力損失の計算、排風機の選定、局排設置届等がありますが、基本は現場に即した局排を設計することが一番だと思います。既存の局排を設置したところ作業性が悪いため、現場で局排が使われない例を数多く見てきました。原因は設計を担当するスタッフと、現場の作業者のコミニュケーション不足にあるのではないかと思われます。設計を担当する方は、現場の作業者と意見交換をして、できれば現場の作業者に設計案を出してもらうことをお勧めします。自分が案を出した局排であれば必ず使ってもらえることは請け合いです。なぜこのことを勧めするかというと、過去に苦い経験があるからです。

約10年ほど前、粉じんの作業環境測定の結果が連続して第3管理区分になる作業場で、5月の連休を利用し、測定先の安全衛生担当者と環境改善のため局排を費用約4百万円程かけて設置したことがあります。設置後の効果を確認するために再度作業環境測定を実施したところ、第1管理区分に近い第2管理区分に改善され効果があることがわかり、安全衛生担当者と共に満足(自己)し、ほっともしました。しかし、1ヶ月後にその現場に行くと新しく設置された局排が動いていません。安全衛生担当者に事情を尋ねると現場の作業者が、新しく設置した局排の排風機の騒音が気になって止めてしまうとのこと、確かに設置した軸流ファンは騒音がしますが、元々現場は騒音が90db以上あり、作業者も耳栓等の保護具を着用しているので、設計時には騒音についての配慮はしていませんでした。その後私と安全衛生担当者がいくら説明しても局排は使用してもらえることはありませんでした。確かに周波数の違う音はしていましたが、あれだけ環境が良くなるのになぜ?と理解できませんでした。

その後数年して何となくわかってきたのは、この局排の設計は私と測定先の安全衛生担当者が中心で作業を進め、現場の作業員の方の意見など聞かず、勝手に連休中に局排を設置したので、気分を害したのではと思うようになりました。多分自分が同じことをされたら同様ではないかと思ったからです。局排を設計するときは、是非現場の作業者の意見を聞いて下さい!!業員の方の意見など聞かず、勝手に連休中に局排を設置したので、気分を害したのではと思うようになりました。多分自分が同じことをされたら同様ではないかと思ったからです。局排を設計するときは、是非現場の作業者の意見を聞いて下さい!!

2.局排の点検・検査

写真1

写真1

現在の製造現場等で有害物を取り扱う場所には、ほとんど局排が設置されています(写真1)が、どうも管理の状態があまり良くない事例が見受けられます。作業主任者の職務である1回/月の局排等の点検や有機則第20条、特化則30条等で決められている年1回以上の定期自主検査の実施が不十分ではないかと感じられます。過去に測定に伺った自動車部品の塗装現場で、作業者から「有機溶剤の臭いがきつく、作業着や体についてしまうので、家でもお風呂に最後に入らされる!」と嘆かれたことがあります。
当然この現場にも局排が設置されていましたが、その水洗ブースの吸引口付近には塗料のカスが大量に付着していて、スモークテスターで吸引能力を調べてもほとんど吸込み風速がありませんでした。設計時には法定で定められた制御風速がでていたと思いますので、このような状態にならないためには、毎日の清掃や定期の点検・検査は大変重要です。もし能力が落ちていれば速やかに修理(具体的にはダクトに穴があいた場合は粘着テープ等の応急処置でも良い写真2.3)を行い、本来の性能を確保して作業環境管理に役立ててください。

写真2 ダクトに亀裂

写真2 ダクトに亀裂

次に、局排を点検していて良く眼にするのは囲い式局排、特にドラフト内が物置になっている場合です。局排内に物を置くと、吸込みの気流が乱れて吸引風速がバラツキ最低風速を採用する制御風速が法定値以下になり、能力不足と判定してしまうときがあります。局排内には不要なものを置かないようにしましょう。
外付け式の局排では制御風速として、最も離れた発生源で0.5m/sが要求されていますが、なかなかこの条件を満たすのは難しいと思います。離れた位置に発生源がある場合は、発生源の一部が局排内に位置するようにしないと制御風速は満足しないと思います。

写真3 応急処置後

写真3 応急処置後

また、外付け式局排のもう一つ問題点は作業性を考慮して作業台等に設置してある上方吸引型です。この場合、作業台等に発生源があると、その近傍に作業者の顔が近づいた時、発生源と局排の間に顔が入り(写真4)、有害物の高濃度ばく露を受ける可能性があります。できれば、上方吸引型局排の不用な面を不燃性のカーテン等でふさいで、何とか囲い式局排に近づけることをお勧めします。

 

写真4

写真4

 

最後に、高額な費用をかけて局排を設置されていることと思いますので、ぜひ、環境管理に有効に使用できるよう見直しましょう。