新しい歯科健診 口腔機能健康測定でわかったこと そして、これから考えていくこと

かいだ歯科医院  戒田 敏之
(さんぽいばらき 第33号/2008年11月発行)

近年の産業構造の変化に伴い、産業保健の現状も労働災害の防止・有毒な化学物質への暴露等の職業性疾病予防対策から、心身の健康づくりに主眼をおいた取り組みに移行していく中で、産業保健での歯科のかかわりも図1のように変化し、歯科健診法も従来型のものから、生活習慣病の予防対策に則した新しい口腔健診法(口腔機能健康測定)図2に移行しつつあります。
新しい口腔健診については、昨年度より、産業保健センターの講習会等で、何度か皆様にも体験していただき、好評を得ております。この検査の利点は、写真に示すように健康診断の流れの中で行い、その場で結果判定ができること、そして問題のある者だけに口腔診査・口腔保健指導を実施することで、従来型では不可能であった時間的な労働損失をなくしました。

図1

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図2

図2

図3

図3

【口腔機能健康測定でわかったこと】
古河市・結城市に工場のある、㈱京三電機の従業員980名(男854名・女126名)を対象に行なった結果を分析しましたところ、図4・5の結果がでました。

図4

図4

図5

図5

特に図5からわかるように、年齢が高くなるほど、口腔内に何らかの問題点が見られました。その中で、問題のあった者の年齢階級別口腔症状の構成比率をまとめますと、図6のようになりました。

図6

図6

図7

図7

これを分析しますと、明らかに、18~39歳までと40歳以上では、問題となる口腔症状が違い、口腔機能の差の問題も図7のように分類することができました。

このことから、ブラッシング法やよく噛むことの大切さについての健康教育など歯科保健の意識の向上が重要である一方、個々によって口腔の問題点の内容が異なることへの理解を促し、同じ問題のある者に対応した小集団指導や個別指導が必要であるといえます。

以上のことから、今年度より開始される特定健診・特定指導またはTHPのなかで、図8・9で示したように、対象に応じて工夫をしながら口腔機能健康測定を活用することによって、有効な保健指導が実施できれば、歯科医療費は一時的には上昇したとしても、それにより生活習慣病等の医療費の全体の比率が下がり、医療費の軽減につながると考えられます。

図8

図8

図9

図9

【これから考えていくこと】

また、さらに分析していくと、口腔内に問題がある者の多い職場においては、個人的にはヒューマンエラーの発生原因、メンタルヘルスとの関連(口腔粘膜疾患・顎関節症等)、部署ごとにみますと生産性との関連(不良品の発生頻度・早退‐遅刻‐欠勤の原因など)など、口腔保健を起点として、心身の健康問題だけでなく、リスクアセスメントの洗い出し、労働災害の低減・,生産性の向上など、様々な事項との関連性が潜在していると思われます。そして、安全配慮義務を遂行するためにも、不健康な就労者には、早急に治療・指導が必要となるのです。
特に最近、派遣労働者による労働災害の増加が取りざたされている中で、私の知る限り、派遣労働者の口腔内状況は正規雇用者と比較すると、問題のある者の比率が高く、それが労働災害と間接的につながっているとも思われます。
残念ながら、費用等の関係で、まだ実施に至る職場が少ないのですが、出来れば1年に1度、または2年に1度でも有効な資料を集約することができますので、是非、口腔機能健康測定を  一般定期健康診断時に実施していただければ幸いと考えております。

最後に、費用の件ですが、1名につき840円(検査キッド・歯科医師による判定料含む)問題ありの者に対しては1名1,260円加算で、必ず口腔検査を行い原因究明し、簡単な動機づけ支援を行います。ちなみに、従来の歯周病検診は1名あたり約4500円費用がかかりますので、労働損失の面のみならず、費用面でもより手軽な健診といえます。
皆様方の事業所において、口腔機能健康測定の実施を希望される場合は、検査キッド試供品をお持ちし、説明にお伺いいたします。申込み、問い合わせは、茨城県歯科医師会8020・6424情報センター(029-252-2561 担当 藤田)までご連絡ください。