メタボリックシンドロームについて

皆川医院 院長
茨城産業保健総合支援センター 産業保健相談員
皆川 憲弘
(さんぽいばらき 第33号/2008年11月発行)

背 景

昨年12 月18 日の茨城新聞に、平均寿命について次のような記事が載った。

47 都道府県で2005(平成17)年の平均寿命が最も長いのは、男性では長野県の79.84 歳、女性は沖縄県の86.88 歳であった。茨城県のそれは、男性が78.35 歳で全国30 位、女性は85.26 歳で43 位であり、前回(2000 年)の発表と比べると、男性は1.15 歳伸びて、順位が5 つ上がり、女性は1.05 歳伸びて、順位は1 つ上がった。

一方、本県は「がん」や「脳卒中」、「心疾患」などの生活習慣病による死亡率が全国に比べて高く、特に、心筋梗塞(虚血性心疾患の一つ)によるものは、女性では全国で最悪の1 位で、男性は2 位であった。とのことである。

このことからも、特に本県においては、ここに的を絞った対策が急務であることがわかるであろう。
わが国の人口動態調査から、主な死因別にみた死亡率を、昭和22(1947)年から平成12(2000)年までの年次推移でみると、「がん」によるものが、急激に増えていることが目に付く。「心臓病」、「脳卒中」によるものがこれに次いで多く、ほぼ横ばい状態である。この傾向は主な諸外国でも同様である。
この心臓病、脳卒中によるものの多くは、動脈の硬化に起因する「動脈硬化性疾患」といわれるもので、その予防には、生活習慣の改善が最重要課題であるといわれ続けている。特に食生活の改善や減塩、運動の奨励などは、長年にわたり繰り返し叫ばれてきてはいるが、なかなか実績があがっていないのが実情であり、疾病のみならず経済的にも大きな問題になっている。
そこで、自分自身の健康状態をよく知った上で、健康管理に役立ててもらうための基準作りが必要になった。日本人のBMI 平均値の変化を昭和51(1976)年から平成12(2000)年にわたってみた国民栄養調査によると、男性では全年齢において経年的に上昇しているのに対して、女性では40 歳以上ではほぼ横ばい状態っであるが、20歳代、30 歳代ではむしろ低下傾向にあることが判明した。これらの国民を対象とした調査、肥満、特に内臓脂肪に注目した多くの調査研究から、この内蔵型肥満の成因としては、遺伝的要因と過食・ 運動不足などの生活環境が考えられている。いずれも高脂血症、高血圧症、糖尿病を伴って、「メタボリック・シンドローム(内臓脂肪症候群)」となり、動脈硬化を引き起こして、「動脈硬化性疾患」を発症することがわかっている。これらのことを踏まえてメタボリック・シンドロームの診断基準は決定した。

メタボリック・シンドロームの診断基準

  • 肥  満
    ウエスト周囲径
    男性:85cm 以上、女性:90cm 以上
  • 高脂血症
    中性脂肪 150mg/dl 以上
    かつ/または HDLコレステロール40mg/dl未満
  • 高血圧症
    収縮期血圧 130mmHg 以上
    かつ/または 拡張期血圧 85mmHg 以上
  • 血  糖
    空腹時 110mg/dl 以上

「肥満」に加え、高脂血症、高血圧症、空腹時血糖の内、2 項目以上が該当した場合に、メタボリック・シンドロームと診断される。

腹部肥満について、内臓脂肪量は、臍レベルで男女とも100cm2 以上であること。本来はCT スキャンなどでの内臓脂肪量測定を行うべきであるが、経済的な理由などによりウエスト周囲径によるものとなった。

ウエスト周囲径は、立位、軽呼気時、臍の高さで測定する。
脂肪蓄積が著明で臍が下方に下がっている場合には、肋骨下縁と上前腸骨棘の中点の高さで測定する。

高脂血症、高血圧症、糖尿病に対する薬剤治療を受けている場合は、それぞれの項目に含める。

現 況

年齢とともに増加する傾向:
平成16 年度の国民健康・栄養調査の結果から、男性では、メタボリック・シンドロームが強く疑われるもの(腹囲85cm 以上で基準項目が2 つ以上該当)の割合は、年齢とともに著明に増加して、全体でも23.0%、40 歳以上では25.7%に達し、予備群と考えられるもの(腹囲85cm 以上、該当項目が1 つ)の割合も増加傾向がみられ、全体で22.6%、40 歳以上では26.0%と高率であった。女性でも、該当8.9%、10.0%、予備群7.8%、9.6%と率は低いものの同様の傾向を示している。

増加の背景(危険因子合併の経年変化):
肥満、高脂血症、耐糖能異常は、男女とも40 年前から増加がみられ、この内、高脂血症、耐糖能異常において著明であり、特に女性で顕著である。

危険因子の保有数と虚血性心疾患発症:
労働省作業関連疾患総合対策研究班は、危険因子(高BMI、高血圧、高血糖、高トリグリセリド血症)の保有数と虚血性心疾患発症との関係を調べている。虚血性心疾患発症の危険性は、危険因子が2 つまでは、5 倍程度であるのに対して、3 つ以上では、35.8 倍と著明に増大することがわかった。

主な動脈硬化性疾患

  1. :心  臓
    1. :狭心症
      心臓の血管が狭くなって、心臓の筋肉が酸素不足になり、胸が痛む
    2. :心筋梗塞
      心臓の血管がつまって、心臓の筋肉が壊死(局所の死)になる
  2. :脳
    1. :脳梗塞
      脳の血管がつまり、脳の組織に障害を与える
    2. :脳出血
      脳の血管が破れて、脳内に血液があふれる
  3. :動  脈
    1. :大動脈瘤
      動脈硬化でもろくなった大動脈が、高い血圧に耐えられなくなり、瘤のように膨らんで、破裂しやすくなる
    2. :閉塞性動脈硬化症
      下肢の動脈の血管が狭くなり、筋肉が酸素不足になり、しびれたり、痛くなる

対 策

食事・運動療法などの生活習慣の改善

  1. :太りにくい健康食として
    日本食の見直しを!
    米を主食に、魚、大豆、野菜、果物、海藻などを多く食べる
    (高炭水化物、高繊維、抗酸化物質、低グリセミック、魚・豆蛋白源)
    P:F:C = 15%:25%:60%
  2. :健康づくりのための身体活動量
    健康づくりのための運動指針2006(厚生労働省)などを参照

予防の大切さを再認識する
定期健診は必ず受ける
自分の健康状態を良く知った上で、健康管理を!

(平成20年10月30日)