巻頭言「不況下における産業保健の課題」

茨城産業保健推進センター 所長 小林 敏郎
(さんぽいばらき 第34号/2009年3月発行)

産業保健に係る方々には常日頃より、職場の安全衛生上の様々な課題に寝食を忘れて奮闘して頂いている事につきまして、敬意を表します。又、茨城産業保健総合支援センターに対しましては、変らぬ御支援、御協力を賜り心より御礼を申し上げます。

昨年来のアメリカのサブプライム問題の金融不安に端を発した経済不況は燎原の火の如く世界同時経済不況に発展し、いまだに収束の目途はたっておりません。アメリカでは大手自動車メーカーや金融証券グループが破格の赤字を計上し、政府から多額の融資を受ける状況に陥っております。
一方、日本においても世界に冠たるトヨタ、ソニー等が大幅な赤字決算により工場の閉鎖やリストラを断行中です。本年2月時点において15万人を超える非正規労働者が次々と解雇され、有期契約労働者の雇い止めがなされております。更に正規社員においても早期退職の勧奨を含めたリストラをすすめており、年度末を控えて雇用の状況は正規、非正規を問わず大変厳しいものになっています。この様に雇用不安、経済不安、社会不安という不安だらけの中において労働する方々の心理的身体的状況は察するに余りあるところであります。
過日、警察庁の発表において11年連続の自殺者が3万人を超えたとありました。現下の大変厳しい状況にある今日、労働者を守るべき産業保健の役割は非常に重要であると思います。長時間の時間外労働などの過重負荷が加わると脳心臓疾患が発症し易くなります。平成18年4月発効の過重労働の面接指導と平成20年4月からの40歳から74歳までの特定健康診査及び特定保健指導を含めた健康管理体制を更に綿密に実践してゆく事が大切であろうと思います。50人以下の事業場においても各地域産業保健センターの協力を得つつ、登録産業医や産業看護師、保健師等の方々と共に充実をはかることが必要です。メンタルヘルス対策についてはまさに喫緊の課題です。労災認定件数においても脳心臓関連よりも大幅な伸びを示しており、特に20歳代から40歳代にかけて突出しております。
生産効率重視、成果重視の風潮の中で心理負荷が増大してメンタルヘルス不調に陥るわけですが、事業場全体としての体制構築が必須でありましょう。そのためには行政、医師会、精神科医、並びに精神保健に係る関係機関が連携することが大切ですが、総合支援センターにおいても心の健康相談やメンタルヘルス対策支援センターを設置しており、更に周知・広報に努めてゆきたいと思います。
一方で、長期的ビジョンでは「仕事と生活の調和(ワークライフバランス)」も考えてゆく必要があろうかと思います。勤勉な日本人にとっては仕事こそ人生との考えもありますが、これからの少子高齢社会の日本にとって長時間労働イコール生産性向上、効率向上とは必ずしも言えないわけですから根本的に労働の意義を改めて考えてみることも大切だろうと思います。

最後に、産業保健に係る関係機関や各職種の方々に勤労環境の更なる改善のサポートをお願いすると共に皆様の御発展をお祈り申し上げます。