企業におけるメンタルヘルスケア ~一次予防への取り組み~
富士重工業(株)宇都宮製作所 専属産業医
栃木産業保健総合支援センター 特別相談員 倉富 靖子
(さんぽいばらき 第34号/2009年3月発行)
当社では一次、二次、三次予防の視点から4つのケアの役割を分担し、メンタルヘルスケアに取り組んでまいりました(図1)。このなかから一次予防の取り組みをご紹介します。
セルフケアでは「個人のストレス対処能力の向上」、ラインケアでは「ストレスの少ない環境づくり」を一次予防の目標とし、事業場内産業保健スタッフを中心に、また契約している臨床心理士にも参加いただき活動しています。実施項目(表1)の中から、リラクセーション講座(セルフケア)と職場環境調査(ラインケア)について詳細を述べてみます。
1. リラクセーション講座
講座ではストレス反応を緩和する方法のひとつとして、職場や家庭で簡単に実施できるリラクセーションを紹介しています。講座は職場単位の小集団で開かれ、臨床心理士から自律訓練法や筋弛緩法などが従業員に紹介され、また実際に体験してもらいます。実施後のアンケートではリラクセーションによる効果を実感する方が多く好評です。(写真1)
2. 職場環境調査(仕事のストレス判定図の作成)
職場環境調査には「仕事のストレス判定図」を使用しました。これは4つの職業性ストレス要因、「仕事の量」「仕事のコントロール度」「上司の支援」「同僚の支援」から職場環境を評価し、それが従業員の健康にどの程度影響を与えるかを知るための簡便な方法です。ストレス判定図作成に必要な調査票には57項目の質問票からなる「職業性ストレス簡易調査票」を用い、職場集団には「仕事のストレス判定図」(図2)を、個人にはストレス状況を示す「ストレスプロフィール」(図3)を作成しました。
調査後に職場上司・産業医・臨床心理士等をメンバーとした検討会を開き、作成された仕事のストレス判定図をもとに職場環境の現状分析・評価をし、これに基づく改善対策を検討しました。さらに職場単位で具体的・現実的な方法を話しあった後6ヶ月間実践し、その後に再度同じ調査を実施して職場環境の改善度を評価しました。個人に作成した「ストレスプロフィール」は、本人の気づきとしてセルフケアに役立ててもらい、またストレス状態が高い人に産業保健スタッフから声をかけるきっかけとしました。
以上の流れを(図4)に示します。これらの調査から以下の点を知ることができました。
- 仕事の量・コントロール度の健康リスクは大部分の職場集団で2回の調査とも全国平均より高く、また6ヵ月後も改善されておりません。この項目の改善は現状として難しいと思われました。
- 6ヵ月後の調査で支援度が良くなり、総合的健康リスクが改善した職場集団がありました。この職場では上司と部下のコミュニケーションを良くする努力を続けており、それが改善の要因でした。逆にコミュニケーション不足がみられた職場では支援度が前回より下がり、総合的健康リスクが高くなりました。これらから職場コミュニケ―ションの重要性が示唆されました。
- 従業員の7割以上がストレスプロフィールの作成を希望しており、心の問題への関心の高さが見られました。またストレス状況を知ることで従業員自身による気づきと、産業保健スタッフによるメンタル不全者の早期発見・早期対応につなげることができました。
これら一次予防活動の効果はまだ数字に表れてはおりませんが、教育や研修を重ねることでメンタルヘルスケアへの認識が広まってきております。今後はコミュニケーション能力の向上を目指した取り組みも計画し、一次予防活動を進めたいと考えております。