保健師として禁煙支援への関わり

関東銀行健康保険組合 保健師 田中 厚子
さんぽいばらき 2000.6(第8号):10-11

1.はじめに

午後3時のシャッターが降ろされると漂ってくる紫煙。たばこの煙が目にしみ、集中力を欠き仕事の能率が上がらないと訴える女子行員。特にコンタクトレンズ装着者には副流煙は大敵で目がショボショボ。このことは職場内の人間関係、モラールの低下となり、企業としては大きな問題。さらに喫煙が関係すると思われる呼吸器疾患や虚血性心疾患の病気の方が発生し、健康保険組合の医療費にとっても大きな問題でした。
「快適職場指針」が92年に公示され、喫煙対策は事業主の責務となったものの、昨今の金融業界においては金融システムの改革が急激に進展するなかで、銀行員は心身ともにストレスフルな状態に置かれ、”喫煙もまた善”とする風潮も職場にはあり、禁煙することによるストレスのほうが悪いと思うので、「タバコくらい自由に吸わせて?」と伏目がちに訴える行員。「その心境も良く分かるし・・・」と医療職として一人である私は自問自答が続き踏み込んでの「喫煙対策の決断」ができなく1、2年が経過しました。
しかし、喫煙は種々の疫学データで、多くの疾病のリスクファクターであることが明らかになっている現在、喫煙問題は企業全体で取り組むべき課題であることを平成10年1月の衛生委員会で提案し客観的事実・データ把握のため同3月喫煙実態調査を全員(約1600名)に実施。有効回答数91.3%のもとに当行としての喫煙対策を検討する。さらに、喫煙者と非喫煙者が相互理解のもとに、良好な人間関係を保ちながら、働くことができるように同4月喫煙対策委員会(喫煙者、非喫煙者同数で、委員長は人事部長の計11名)を設け喫煙行動づくりを進めてきました。

2.当校における喫煙実態調査結果(10年2月実施)男子のみ[n=827]

主なものを列挙すると…
男子喫煙率…57.4%(管理職喫煙率61.8%)
喫煙者で喫煙対策として…分煙63.7%、全面禁煙6.6%
非喫煙者(男女)が体調が悪いとき、喫煙者に「やめて」と言えるか?…言う7.1%、相手による37.3%、言えない55.5%
喫煙者で禁煙したいと考えている…86.4%
喫煙者で喫煙はストレス解消など良い面もある…38.1%

3.喫煙対策委員会の設置

当行における方針として、

  1. 空間分煙(喫煙場所を決め、それ以外の場所を禁煙)の徹底
  2. 禁煙希望者に対する禁煙支援の2つを当行の喫煙対策とする。

(分煙の確立は喫煙者に禁煙の動機付けとなり、禁煙支援で喫煙者が減れば分煙はより徹底される)

4.禁煙支援(禁煙教室)の開催

(1)対象と方法

40~50代の男子禁煙教室参加希望者とし、土曜日に実施。禁煙開始日を一斉に5月の連休(喫煙本数が増えるのは職場が圧倒的に多いため)からとした。なお、教室の有効性を検討するため、参加希望していたが、当日仕事の都合や諸事情で出席できないものをコントロール群とし、教材提供、支援も参加者と同じとした。(違いは禁煙教室に参加しないことだけである)プログラムは、行動療法をベースとしている大阪がん予防検診センターの中村正和先生開発の禁煙サポートプログラムを参考とし、当日のスタッフは私一名と禁煙アドバイザー(行員で禁煙経験者)の2名である。

  1. :禁煙教室プログラム…所要時間3.5時間
    • 禁煙前の体調チェック(体重、体脂肪、血圧、呼気CO濃度)
    • 参加者自己紹介
    • タバコの害(クイズ、実験、実演)
    • 禁煙アドバイザーからの禁煙ハウツー
    • ロールプレイング(宴席でタバコを吸いたくなったらの想定で)
    • 禁煙宣言
    • 記念撮影(健康への旅立ちにむけて)
  2. :支援及び評価
    禁煙開始後1週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年時に禁煙アドバイスの文書(モク・ぜろ会だより)を送付、同時に禁煙状況をアンケートにて確認す。6ヶ月で喫煙対策委員長より禁煙認定書を交付。
(2)結果…完全継続禁煙率

(平成10年、11年実施分) (途中でドロップアウトし再スタートした者は含まず)

完全継続禁煙率

完全継続禁煙率

5.終わりに

禁煙開始6ヶ月の時点での完全継続禁煙率は教室参加群45.5%、コントロール群12.5%とP値は0.03と統計的に有意といえる。なお、現在、我が国の禁煙はニコチン補助剤との併用が主流であるが、補助剤に頼らずそして、ストレスフルな職場、保健師1人でも禁煙教室の効果が確認できた。また、分煙が徹底されてくると、教室に参加しなくても、子どもが生まれた、家を新築したなどの理由で、1人で禁煙をスタートする方や、本数が減っている方も多く、健康度の向上や医療費の軽減につながればいいな~と淡~い期待を抱いています。東北大学の辻一郎助教授の研究では、喫煙、肥満、運動不足の3つが揃えば、そうでない人に比べて医療費が35%増しとする調査があり、当健康保険組合の保険料率は平成5年より78/1000と低率であり、喫煙対策が少しでも効を奏していると考えたいものですが???どうでしょうか。


参考文献
労働省安全衛生部環境改善室監修(1998) / 職場における喫煙対策Q&A、中央労働災害防止協会
中村正和 月刊 働く人の健康づくり / 職場における喫煙対策
HOW TO健康管理 / 健康づくりで期待できる経済効果183号