労働安全衛生法の改正について(3)

茨城産業保健総合支援センター
(茨城県医師会報 平成18年09月号掲載)

1.前回までの経過

今回の労働安全衛生法の改正は、「危険性・有害性の低減に向けた事業者の措置の充実」と「過重労働・メンタルヘルス対策の充実」について改正されました。

そのうち、「危険性・有害性の低減に向けた事業者の措置の充実」には、1危険性・有害性調査と措置、2計画届の免除、3化学物質の表示等、4注文者の講ずべき措置、5元方事業者の講ずべき措置の、5項目が有ります。

6、7月号では、1危険性・有害性調査と措置についてご説明いたしました。今月は2計画届の免除についてご説明したいと思います。

なお、改正点のうち、産業医の先生方の職務に直接的な影響がある「過重労働者に対する医師による面接指導」の詳細については、県内各地で開催予定(注)のセミナーに譲りたいと思います。
(注)9月24日日立シビックセンター、10月15日ワークヒル土浦、10月29日鹿嶋勤労文化会館、11月19日しもだて地域交流センターアルテリオにて開催予定です。これらの詳細は茨城産業保健総合支援センターのホームページでご確認下さい。

2.そもそも計画届とは

労働安全衛生法では、労働者の危険および健康障害の防止を図る方法の一つとして、事前審査の規定が定められています。

一定の有害業務や危険業務に関する設備を設置したり改変したりする場合などには、事前に厚生労働大臣や労働基準監督署長あてに、それらの計画届を提出し事前審査を受ける必要があります。

まず、一定規模以上の工場などに対する規制があります。それが下記のa.です。それとは別に、工場の規模などには関係無く、特定の有害業務や機械設備ごとに規制がかかってきます。それが下記のb.からx.までの規制です。

  1. 製造業の大部分や、電気業、ガス業、自動車整備業、機械修理業に該当する事業場で、電気使用設備の定格容量の合計が300kW以上の場合、その事業場において建設物や機械などを設置する時には、工事開始の30日前までに所轄の労働基準監督署長へ計画届を提出しなければなりません。これは新設の場合だけでなく、移転や主要構造部分を変更する場合も含みます。
    なお、説明は省かせていただきますが、6ヶ月未満の期間で廃止するものなど仮設のものについては除外されるケースもあります。
  2. ボイラー、第一種圧力容器、クレーン、移動式クレーン、デリック、エレベーター、建設用リフト、ゴンドラで、能力・大きさなどが一定基準を超える物を設置・移転・変更する場合には、工事開始の30日前までに所轄の労働基準監督署長へ計画届を提出しなければなりません。なお、この場合に6ヶ月未満の除外はありません。

以下c.からx.までの、設置・移転・変更の工事を行う場合は、工事開始の30日前までに所轄の労働基準監督署長へ計画届を提出しなければなりません。また6ヶ月未満の期間で廃止するものについては除外されます。

  1. 屋内作業場等において、第一種有機溶剤または第二種有機溶剤を使用して有機溶剤業務に従事させるときに設けなければならないと規定されている、密閉設備、局所排気装置、プッシュプル型換気装置について。
    (第一種、第二種、第三種有機溶剤の定義は、有機溶剤中毒予防規則第1条に有ります。)
  2. タンク等の内部で、第三種有機溶剤を使用して有機溶剤業務に従事させるときに設けなければならないと規定されている、密閉設備、局所排気装置、プッシュプル型換気装置、全体換気装置について。
  3. 鉛の製錬・精錬を行う工程において、それぞれの作業場所に応じて設けなければならないと規定されている、密閉設備、局所排気装置、プッシュプル型換気装置について。
  4. 四アルキル鉛をガソリンに混入する業務に用いる機械・設備について。
  5. 特定化学物質の第一類物質、特定第二類物質等を製造する設備について。
    (第一類物質、第二類物質の定義は、労働安全衛生法施行令別表第三に有ります。)
    (特定第二類物質等の定義は、特定化学物質等障害予防規則第2条と併せて第4条にまたがって有ります。)
  6. 特定化学設備及びその付属設備について。
    (特定化学設備及びその付属設備の定義は、労働安全衛生法施行令第15条に有ります。)
  7. 第二類物質のガス・蒸気・粉じんなどが発散する屋内作業場において設けなければならないと規定されている、密閉設備、局所排気装置、プッシュプル型換気装置、全体換気装置、湿潤化装置について。
  8. アクロレインにかかる排ガス処理装置について。
  9. アルキル基がメチル基またはエチル基であるアルキル水銀化合物、塩酸、硝酸、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム、ペンタクロルフェノールおよびそのナトリウム塩、硫酸、硫化ナトリウムを含有する排液を処理する装置について。
  10. 放射線装置、放射線室、放射性物質取り扱い作業室、放射性物質にかかる貯蔵施設について。
    (放射線装置、放射線室の定義は、電離放射線障害防止規則第15条に有ります。)
    (放射性物質取り扱い作業室の定義は、電離放射線障害防止規則第22条に有ります。)
    (放射性物質の定義は、電離放射線障害防止規則第2条に有ります。)
  11. 事務所に設ける中央管理方式の空気調和設備、機械式換気設備について。
  12. 屋内に設ける、岩石・鉱物を彫る機械や、岩石・鉱物・金属を研ま材の吹き付けにより研磨する機械や、土石・岩石・鉱物・炭素原料・アルミニウム箔を動力により破砕・粉砕・篩い分ける機械について。
  13. 砂型を用いて鋳物を製造する工程において、屋内に設ける型ばらし装置について。
  14. 粉じん障害防止規則別表第二、別表第三に掲げる作業について設けなければならないと規定されている、密閉設備、局所排気装置、プッシュプル型換気装置、湿潤化設備について。
  15. 液圧プレスや、偏心機構を有する機械プレスについて。
  16. 容量が1トン以上の、金属・鉱物用溶解炉について。
  17. 労働安全衛生法施行令別表第一に掲げる危険物を製造もしくは取り扱う設備、または引火点が65度以上の物を引火点以上の温度で製造もしくは取り扱う設備について。
  18. 一定の条件の乾燥設備について。
  19. アセチレン溶接装置、ガス集合溶接装置について。
  20. 軌道装置について。
  21. 一定の条件の機械集材装置、仮設通路、足場、運材索道、型枠支保工について。
  22. 石綿の粉じんが発散する屋内作業場において設けなければならないと規定されている、密閉設備、局所排気装置、プッシュプル型換気装置、全体換気装置について。(なお、アモサイトとクロシドライトは製造等禁止石綿となっており、原則として製造や取り扱いができませんので、計画届の制度には含まれていません。)

また、上記a.~x.とは別に、一定の条件の建設工事については、工事開始の30日前までに厚生労働大臣へ計画届を提出しなければならないものや、工事開始の14日前までに所轄の労働基準監督署長へ計画届を提出しなければならないものがあります。これらについては、ご説明を省略させていただきます。

3.計画届の免除について

今回の法改正では上記の計画届のうち、a.からx.までの計画の届出が免除の対象となります。

ただし、免除が認められるのは、安全衛生水準が高いと認められる事業場だけです。そのような事業場は、計画の届出を免除しても、自ら適切な計画を策定できるとみなされるのです。

安全衛生水準が高いと認められる事業場とは、具体的には次の条件に当てはまる事業場です。

  1. 過去2年間に法令違反等で罰金刑等を受けたことが無い。
  2. 認定を取り消されたことが無い。
  3. 会社の役員に1,2に該当する人が居ない。
  4. 労働安全衛生マネジメントシステムを適切に実施している。
  5. 申請日前1年間に通知された労災保険のメリット収支率が75%以下である。
  6. 申請前1年間に、死亡災害などの重大な労働災害を発生させていないこと。

以上の条件に全て当てはまり、労働基準監督署長から認定証の交付を受けている場合は、上記のa.からx.までの計画の届出が免除されます。

逆の見方をすれば、今回の法改正にこのような優遇措置が盛り込まれているのは、労働安全衛生マネジメントシステムを大いに実施していただきたいとの狙いがあると言えます。

4.法改正の狙い

先の6、7月号で、今回の法改正により「危険性・有害性調査と措置」が努力義務化されたとご説明致しました。この「危険性・有害性調査と措置」というのは、労働安全衛生マネジメントシステムの重要なパーツなのです。つまり、労働安全衛生マネジメントシステム全体の導入までは義務化しなかったけれども、その中心となる「危険性・有害性調査と措置」は努力義務となりました。

加えて今回の法改正では、上記の計画の届出の免除を新設することにより、労働安全衛生マネジメントシステムの普及を図ろうとしています。