茨城産業保健総合支援センター
(茨城県医師会報 平成17年10月号掲載)

1.はじめに

前回は予定を変更して、石綿についてご説明いたしました。

今回は、石綿に関連して「健康管理手帳」が話題に上がっておりますので、それについてご説明したいと思います。

2.健康管理手帳とは

都道府県労働局長が発行する健康管理手帳には、二種類の全く性質の異なる物があります。厄介なことにどちらも「健康管理手帳」なのです。

まず、今回のご説明からは外れるほうの健康管理手帳を簡単にご説明いたします。これは、労災保険により療養を受けていた人が治癒となった場合に、一定のケースにおいてはアフターケアが認められる場合があります。このアフターケアを受けるために必要となる健康管理手帳がそれです。茨城労働局では労災補償課が事務を担当しています。これについてのご説明は割愛させていただきます。

次に、今回の健康管理手帳について申し上げます。これは、一定の有害業務に就いていた人が退職後、健康診断を受けるために必要となる健康管理手帳です。茨城労働局では安全衛生課が事務を担当しています。本稿においては便宜上「有害業務の健康管理手帳」と呼ばせていただきます。

3.有害業務の健康管理手帳

有害業務の健康管理手帳は、労働安全衛生法第67条にその規定があります。がんその他の重度の健康障害を生ずるおそれのある業務のうち、労働安全衛生法施行令第23条に列挙する12の業務を対象としています。さらにそれらの業務ごとに、従事年数などの要件を付しており、具体的には労働安全衛生規則第53条に掲げています。

これらをまとめたのが表1です。この表に当てはまる職歴の人が、健康管理手帳の申請ができる人です。

なお、この表をご覧になってお解かりの通り、ほとんどの対象業務においては、その従事年数が要件となっております。しかし、3号の「粉じん作業にかかる業務」、8号の「ベリリウム及びその化合物を製造し、又は取り扱う業務」、11号の「石綿を製造し、又は取り扱う業務」においては一定の所見があることが要件となっております。

また、この表において、3号の「じん肺法第2条第1項第3号に規定する粉じん作業」とは何かという疑問が残りますが、それについては次回以降においてご説明できればと思っています。

表1 健康管理手帳の交付対象業務(平成15年1月20日改正)

業  務要  件
1 ベンジジン及びその塩(これらの物をその重量の1%を超えて含有する製剤その他の物を含む)を製造し、又は取り扱う業務
2 β-ナフチルアミン及びその塩(これらの物をその重量の1%を超えて含有する製剤その他の物を含む)を製造し、又は取り扱う業務
当該業務に3ヶ月以上従事した経験を有すること(注1)
3 じん肺法第2条第1項第3号に規定する粉じん作業に係わる業務じん肺法の規定により決定されたじん肺管理区分が管理2又は管理3であること
4 クロム酸及び重クロム酸塩並びにこれらの塩(これらの物をその重量の1%を超えて含有する製剤その他の物を含む)を製造し、又は取り扱う業務。ただし、これらの物を鉱石から製造する事業場以外の事業場における業務を除く。当該業務に4年以上従事した経験を有すること
5 三酸化砒素を製造する工程において、焙焼若しくは精製を行い、又は砒素をその重量の3%を超えて含有する鉱石をポット法若しくはグリナワルド法により精錬する業務<当該業務に5年以上従事した経験を有すること
6 コークス(注2)又は製鉄用発生炉ガスを製造する業務。
ただし、コークス炉上において若しくはコークス炉に接して又はガス発生炉上において行う業務に限る。
当該業務に5年以上従事した経験を有すること
7 ビス(クロロメチル)エーテル(これをその重量の1%を超えて含有する製剤その他の物を含む)を製造し、又は取り扱う業務。当該業務に3年以上従事した経験を有すること
8 ベリリウム及びその化合物(これをその重量の1%を超えて含有する製剤その他の物(合金にあっては、ベリリウムのその重量3%を超えて含有する物に限る)を含む)を製造し、又は取り扱う業務。両肺野にベリリウムによる慢性の結節性陰影があること。
9 ベンゾトリクロリドを製造し、又は取り扱う業務(太陽光線により塩素化反応をさせることによりベンゾトリクロリドを製造する事業における業務に限る)当該業務に3年以上従事した経験を有すること
塩化ビニルを調合する業務又は密閉されていない遠心分離器を用いてポリ塩化ビニル(塩化ビニルの共重合体を含む)の懸濁液から水を分離する業務当該業務に4年以上従事した経験を有すること
石綿(これをその重量の1%を超えて含有する製剤その他の物を含む)を製造し、又は取り扱う業務。
ジアニシジン及びその塩(これをその重量の1%を超えて含有する製剤その他の物を含む)を製造し、又は取り扱う業務当該業務に3ヶ月以上従事した経験を有すること(注1)

(注1)ベンジジン、β-ナフチルアミン、又はジアニシジンに関する業務の従事期間を合計して3か8月以上となれば要件を満たした物とする。
(注2)従来は製鉄用コークスの製造に関する業務のみが交付対象であったが、改正により製鉄用以外のコークスを製造する業務も対象に加えられた。

4.有害業務の健康管理手帳

そもそも、表1に掲げられている業務に関し、在職中の者は事業者が特殊健康診断を実施しなければなりません。つまり、これらの業務に現在就いている者や、過去に就いていたことがある者については、雇い主の義務として特殊健康診断を実施しなければなりません。そのことは、労働安全衛生法第66条第2項に定められています。しかし、退職者に対してまでは雇い主の義務は及びません。

そのため、これらの業務を過去に行った者で、現在は退職、または無関係な他社に転職したという者のために、有害業務の健康管理手帳があります。

有害業務の健康管理手帳は、労働者本人の申請により交付されます。この手帳の交付を受けていますと、年1回か半年に1回、定期に特殊健康診断の案内が届きます。その案内により、国費で指定病院の特殊健康診断が受けられます。また、検診結果は健康管理手帳に記入されて本人の手に戻ります。

これらの特殊健康診断は、じん肺が年1回、それ以外の業務が半年に1回の頻度で実施されます。

5.石綿とじん肺

「石綿を製造し、又は取り扱う業務」に就いていた者で「両肺野に石綿による不整形陰影があり、又は石綿による胸膜肥厚の陰影がある」場合は、石綿業務の健康管理手帳の交付が受けられます。

また、「石綿を製造し、又は取り扱う業務」に就いていた者で石綿肺に罹りじん肺管理区分が管理2又は管理3と決定している者は、じん肺の健康管理手帳の交付が受けられます。

もし、その両方の要件に該当する者がいれば、両方の健康管理手帳を申請できます。

6.有害業務の健康管理手帳の申請手続き

申請用紙は、各地の労働基準監督署で入手できますが、申請先は地方労働局です。地方労働局の安全衛生課(安全課と労働衛生課に分かれている局においては労働衛生課)が事務を担当しています。

退職時に申請する場合は、その事業場の所在地を管轄する地方労働局に申請します。事業場が茨城県内にある場合は水戸市北見町1の11にある茨城労働局安全衛生課(電話029-224-6215)に申請書を提出することになります。

退職後時間が経ってから申請するなら、労働者本人の住所地を管轄する地方労働局に申請します。

いずれにしても、申請者は労働者本人です。

なお、表1に掲げられている業務の「どの業務に従事したのか」「その業務の従事期間はいつからいつまでだったか」「いつその事業場を退職したのか」について、その事業主に証明書を書いてもらって申請書に添付してください。退職後時間が経ちすぎて事業場が消滅しているなど、事業主に証明してもらえない場合もあると思います。そのような特殊なケースについては申請先の地方労働局にご相談下さい。

また、3号の「粉じん作業にかかる業務」、8号の「ベリリウム及びその化合物を製造し、又は取り扱う業務」、11号の「石綿を製造し、又は取り扱う業務」においては一定の所見があることが要件となっております。そのため、レントゲンフィルムや健康診断結果証明書などを添付することが必要になります。詳しくは申請先の地方労働局にお尋ねください。