Q2-1. 過重労働でうつ病/休職期間満了の解雇が無効となる場合も
Q2-1.
過重労働が原因でうつ病になり、病気療養のため休職しています。会社の説明では、1月以内に復職できないと、社内規定により休職期間満了による退職となるそうです。いまも復職に向けての準備をしているところですが、完全な状態での復職には自信がありません。このまま、退職となるのでしょうか。

A2-1.
休職とは、労務に服させることが不適当な事由が生じた場合、従業員の地位を維持したまま一定の期間労務に服することを停止させることをいいます。
法的には労働基準法施行規則第5条第1項の労働者に対する労働条件の明示事項に「休職に関する事項」の規定があり、一般的には、会社が労働協約や就業規則等に様々な制度を設けています。業務外の疾病のため長期の欠勤を認める「病気休職」などは、その典型といえます。
そして休職期間中に休職事由がなくなれば、復職できますが、休職が続けば休職の延長、解雇(又は退職)などとなります。
復職するには、通常、就労が可能であるという主治医の診断書が必要です。診断書を会社に提出し、それが認められた場合に復職となります。
しかし医師の「就労可能」との診断書があるという理由だけで、会社が直ちに復職を認めるかというと、必ずしもそうではありません。
復職の可否は、実際に社員が就労可能な状態まで回復したかどうかを会社が十分に調査し、検討した上で判断するのが通例です。
その結果、病気の回復が不十分なため十分な労務提供ができない場合には、会社としてその不十分な労務の提供を受けなければならない法律上の義務はありませんので、復職が認められないことになります。
しかし回復の状況を考慮し、当初は業務の量を軽減させたり、状況によっては配置転換などをすれば就労可能な場合には、復職するに際して、そうした配慮をすることも求められていますので、復職の準備をしていることなどを説明して、まずは誠意をもって会社と話し合ってみてはいかがでしょうか。
判例でも、継続的契約関係にある使用者と労働者との間に適用される信義則に照らし、使用者がその可能な労務の提供を受領するのが相当であると言えるときには、使用者は当該労働者の提供可能な労務の受領をすべきであるとしています(片山組事件 最高裁判決 平成10.4.9)。
ところで、「過重労働が原因でうつ病」という場合は、話しが少し変わってきます。
今年4月、過重労働が原因でうつ病になったのに、休職期間満了を理由に解雇されたのは不当だとして、元社員が解雇無効などを求めた訴訟で、東京地裁は解雇を無効と認め、会社に対して未払い賃金や慰謝料など計約2,800万円の支払いを命じる判決がありました。
判決によると技術系社員だった元社員は、新規プロジェクトを担当し、1か月の時間外労働が約90時間に上っていたそうです。このため裁判長は、業務量の増大などが精神的・肉体的に大きな負担となったもので、過重労働とうつ病には因果関係があったと判断。「業務上の疾病で療養中に行った解雇は労働基準法(第19条)に違反する」と、解雇の違法性を認めたのでした。
うつ病などの精神的疾患を業務上の疾病(労災)と認定するための基準として、厚生労働省は「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」(平成11.9.14基発第544号)を出しています。
それによれば、①対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること、②業務以外の心理的負荷及び個体側要因により当該精神障害を発病したとは認められないこと、の2つ条件を満たさなければなりませんが、当該事件では、うつ病発症前に「1か月の時間外労働が約90時間に上った」こと、また時間外労働以外の個人的な原因は無いと判断されていますので、過重な時間外労働が原因だったと判断されたようです。
労働基準法第19条の条文は、下に記載しておきますが、労働者が業務上疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間は解雇してはならないことになっています。
元社員のうつ病は業務上疾病であり、しかも解雇当時は療養中でしたので、解雇自体が出来ない、従って会社が行った解雇は無効ということになります。
この事件について会社は控訴していますが、事実関係以外については争点は無いように思います。
ご相談の件についても、仮に休業初日に遡って労災認定がされるような場合は、休職が取り消されて労災保険から療養費や休業手当が支給されることになります(この場合、健康保険組合等から受け取った医療費や傷病手当金などは返還しなければなりません)。
業務上の疾病となるかどうか、労働基準監督署に相談してみてはいかがでしょうか。


労働基準法第19条(解雇制限)
労働者が次の各号の一に該当する場合においては、解雇してはならない。

  1. 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間。但し 使用者が、法第81条の規定によって打切補償(平均賃金の1,200日分) を支払う場合または天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合においては、この限りでない。
Q2-2. 派遣労働者が派遣先で怪我/労災保険給付の手続きは
Q2-2.
派遣労働者が、派遣先で怪我をしました。労災保険の給付を受けるには、どのような手続をとればよいのでしょうか。

A2-2.
派遣労働者も労災保険の給付は一般の労働者と同じです。派遣労働者に係る労災保険は、労働時間の長さや契約期間の長さにかかわらず、すべての派遣労働者が対象となり、雇用主である派遣元で加入手続をとる必要があります。
従いまして、労災給付を受けようとする場合には、基本的に派遣元の所在地を管轄する労働基準監督署に給付請求書を提出することになります。
なお、例えば療養補償給付等について、労働基準監督署の手続書類には「事業主の証明を受けること」とされていますが、この事業主の証明というのは、災害発生の原因や状況等の事実に相違がない旨の証明のことで、労災保険の認定・給付を行なうのはあくまでも労働基準監督署です。
しかし、派遣元に災害発生の原因や状況等に関する情報が伝わっていなければ、証明ができません。このため派遣先の事業者は、当該労働災害について労働者死傷病報告を労働基準監督署に提出するとともに、その写しを派遣元に送付しなければならないことになっています(労働者派遣法施行規則第42条)※。
ちなみに派遣元では、被災した労働者は労災保険給付の手続を行うために必要な助力を行うよう義務づけられていますが(労災保険法施行規則第23条)、あくまでも労働基準監督署に給付請求するのは労働者本人又は遺族となります。よく分からない場合は、労働基準監督署に相談すれば教えてくれますので相談して下さい。

※派遣労働者に係る労働者死傷病報告の提出義務は、派遣先・派遣元の双方にあります。派遣元・派遣先の双方の事業者が、それぞれ労働者死傷病報告を作成し、所轄の労働基準監督署長に提出しなければなりません(労働安全衛生規則第97条)。
また平成16年3月に労働者死傷病報告の様式が改正され、派遣労働者に係る労働災害については、派遣先・派遣元の明示や、派遣先事業場名の明記等が義務付けられています。

Q2-3. 定年退職後の労災補償
Q2-3.
現在、労災により療養補償給付と休業補償給付を受けております。もうじき定年を迎えますが、それまでに仕事に復帰できる見込みはありません。
まだしばらくの間、療養・休業が必要となる見込みですが、退職後も労災保険給付は受けられるでしょうか。
それとも、療養中の定年退職は解雇制限に抵触して無効となるのでしょうか。

A2-3.
定年退職後は当然賃金を受けることができなくなり、休業損害が生じないため、補償を受けることができないのではないかとご心配なのではないかと思います。
しかし、療養補償給付が退職後は支給されないとなると、業務上の事由により負傷し療養しているのにもかかわらず、治療を受けられないという不合理なことになります。
また負傷していなければ、定年により退職した後も、他の事業場に再就職し賃金を得ることもできたはずですから、この点からも矛盾があります。
従いまして、たとえ退職の理由により使用者との間に雇用関係がなくなったとしても、支給事由が存在する限り保険給付を受けることができますので、ご安心ください。
このことは、労働基準法第83条及び労災保険法第12条の5で「補償を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない」と規定されています。
以上のように、業務上の事故に対する補償は雇用関係の存続とは別に考えられることになります。
次に、解雇制限規定についてです。
労働基準法第19条は「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間は・・・、解雇してはならない。」と定めています。
しかしここで禁止しているのは、使用者による一方的な労働契約の解約の意思表示である「解雇」であり、労働者側からする任意退職や労働契約に期間の定めがある場合の期間満了による労働契約の終了、定年等、解雇以外の事由による労働契約の解消をも禁止しているわけではありません。
但し、一応定年年齢は定めてはいても、慣例として定年年齢を延長していたり、あるいは嘱託として再雇用したりしている場合ですと、若干事情は異なります。
こうした場合、当然に従業員は引き続き雇用されることを期待するようになりますから、あくまでも「定年に達した場合に当然労働関係が消滅する慣行となっていて、それを従業員に徹底させる措置をとっている場合」(昭26年8月9日基収第3388号)には、解雇の問題を生ぜず、したがってまた法第19条の問題も生じないということです。

Q2-4. 腰痛の労災認定基準は
Q2-4.
何年もその業務に従事している労働者が腰痛を発症した場合、労災になりますか。

A2-4.
「災害的」な「できごと」があって腰痛を発症したものを「災害性腰痛」といい、ある程度の重量作業を繰り返し作業していて腰痛を発症したものを「非災害性腰痛」といいます。実際に労災認定される腰痛のほとんどは「災害性腰痛」です。 ご相談のような場合では、発症時に急激な力がかかっていれば「災害性腰痛」として労災と認められるケースがあります。

Q2-5. 業務とは関係ないと思われる疾病の労災申請を本人が望む場合
Q2-5.
腰痛について、本人が強く労災申請を望んでいます。明らかに業務とは関係ないと思われるのですが、どのように対応すればいいですか。

A2-5.
労災の請求権者は労働者本人なので、請求を拒むことは出来ません。会社の証明をもらわなくても、労災申請をすることができます。

Q2-6. 労災保険の休業は何日から?
Q2-6.
労災保険の休業とは、1日でも休業ですか。

A2-6.
1日でも休業ですが、労働安全衛生規則では、休業4日以上は、労働者死傷病報告の様式第23号を提出する必要があり、休業4日未満であれば様式第24号を提出することになります。労災保険では、休業4日以上で休業給付が受けられます。4日未満であれば事業主負担となります。

Q2-7. 海外駐在中に疾患発症時の労災保険給付の対象は?
Q2-7.
海外に駐在している労働者が脳心疾患を発症したのですが、労災保険法上の保険給付の対象になりますか? 

A2-7.
労災保険は、国内にある事業場に適用され、そこで就労する労働者が給付の対象となる制度であり、海外の事業場で就労する方は対象となりません。
海外での労災に対する補償制度として、労災保険に特別に加入する制度(海外派遣者の特別加入制度)が設けられています。特別加入の手続きをとっている場合は保険給付対象となります。
なお、国内の事業場から指揮命令を受け、海外で1か月間に約100時間の時間外労働に従事した労働者の過労死について、国内の事業場の労働者であると判断され、労災保険給付の対象とされた事案があります。

情報・資料