iv 行政指導による健康診断

Q3-iv-1. VDT健診について
Q3-iv-1.
(1)VDT健診は事業主に義務付けられているのですか?
(2)義務付けられているとすれば、どのように義務付けられているのですか?また、その義務を怠るとどのような措置が下されるのですか?

A3-iv-1.
労働安全衛生法では、一般健康診断、特殊健康診断を、罰則を伴ったものとして義務付けています。しかし、VDT健診はそれとは別ですので、強制的な義務ではありません。
VDT健診は、古くは昭和60年の通達によりますが、現在有効なのは平成14年4月5日付、基発第0405001号通達「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて」に定められています。
これは通達ですから、強制力はありません。ただ、「VDT作業についてはこのような管理が必要である」と公に示されているのですから、それを怠った場合には民事的な意味で責任を追求される恐れはあります。
ぜひ「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を読まれることをお勧めいたします。

Q3-iv-2. エポキシ樹脂取扱い作業に健康診断は必要か
Q3-iv-2.
エポキシ樹脂を使用している職場があります。当社では、以前から、エポキシ樹脂取扱い作業者に対する健康診断を行っておりますが、法的にも健康診断は必要なのでしょうか?

A3-iv-2.
健康診断については、安全衛生法やじん肺法など法律で実施が定めているもののほか、行政指導(昭和31年5月18日付け基発第308号「特殊健康診断指導指針について」ほか個別の通達)により特殊健康診断を実施するよう勧奨されている業務が約30種類ほどありますが、「エポキシ樹脂」の取扱い業務は、これらには含まれておりません。
しかし、その一方で、エポキシ樹脂取扱者に対する健康診断を実施しているケースが見られますが、その理由は、以下によるものと思われます。
エポキシ樹脂は、分子構造の相違や分子量の大小によりビスフェノールA型、ビスフェノールF型、臭素化エポキシ樹脂、グリシジルアミン型等様々なタイプがありますが、1957年頃よりエポキシ樹脂の経皮感作性が報告されており、また呼吸器への障害も1950年ごろより知られていました。
これらエポキシ樹脂のなかでは、ビスフェノールA型が最も汎用されていることから、接触皮膚炎の報告はビスフェノールA型によるものが多いようですが、ビスフェノールF型エポキシ樹脂による接触皮膚炎例も報告されています。また、エポキシ樹脂を硬化させる際に加える硬化剤にも刺激性、感作性毒性があり、硬化剤による接触皮膚炎や肝障害も報告されています。
なお、エポキシ樹脂硬化剤(公表名 6-フェニル-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン・ホルムアルデヒド縮合物と1,3-フェニレンビス(メチルアミン)・アクリロニトリル付加物の反応生成物)については、厚生労働省の「新規化学物質の有害性の調査結果に関する学識経験者の意見について(報告)」の中で、微生物を用いる変異原性試験の結果、弱い変異原性が認められるとされた化学物質一覧に含まれており、エポキシ樹脂硬化剤として使用される4‐クロロ‐オルト‐フェニレンジアミンについては、IARCでグループ2b(ヒトに対して発がん性があるかもしれない)に分類されているとしています。
このように、エポキシ樹脂については、以前から有害性が指摘されていたものですが、さらに平成15年8月11日、厚生労働省労働基準局長から「化学物質等による眼・皮膚障害防止対策の徹底について」(基発第0811001号)という通達が出されました。
通達では、安衛則第594条に規定する皮膚に障害を与える物として、ビスフェノールA型及びF型エポキシ樹脂を指定し、これについては、眼・皮膚の障害の発生を防止するために適切な保護具の使用等を徹底するとともに、「眼又は皮膚に障害を与える化学物質等を取り扱う業務に従事する労働者については、当該化学物質に係る労働安全衛生法第66条第2項に基づく健康診断を受診している者を除き、事業者は安衛則第44条又は第45条に基づく定期健康診断実施の際、当該労働者がばく露するおそれのある化学物質等の名称及びその有害作用、ばく露することによって生じる症状・障害等に関する情報を化学物質等安全データシート(MSDS)等を用いて当該健康診断を行う医師に通知の上、自覚症状及び他覚症状の有無の検査にあわせて眼又は皮膚の障害の有無の確認を求めることが望ましいこと。」としています。
つまり、改めて特殊健康診断を実施する必要はありませんが、定期健康診断における自覚症状及び他覚症状の有無の検査の際に、エポキシ樹脂使用による眼・皮膚の障害の有無を確認するのが望ましいということです。

Q3-iv-3. 騒音障害防止のためのガイドラインを遵守させるには
Q3-iv-3.
騒音職場がある工場の産業医をしています。
この工場では、年1回の定期健診で1000hzと4000hzの聴力検査を行っていますが、それに異常があった人に対する二次健診を実施しておりません。
事業主には厚労省の騒音障害防止のためのガイドラインを提示して、再三再四、二次健診の詳しい聴力検査実施を促していますが、「努力義務」との認識で実施が実現しません。ガイドラインは事業主に義務付けるものではないのでしょうか。説得力のある根拠を示すことはできないでしょうか。

A3-iv-3.
騒音の問題について、理解の無い経営者にいかに労働衛生の大切さをわかってもらうかがこの問題の本質だと思います。
等価騒音レベル85db(A)以上の騒音作業は、製造業の有害業務としていまでも最多ですし、推定100万人以上の労働者が騒音職場で働いているといわれています。
しかし騒音健診の受診者数は年間20万人強に過ぎず、騒音性難聴の労災認定は年間500件前後を推移したままです。
騒音性難聴とは、慢性的に長時間にわたって騒音に曝露されて発症する慢性進行の感音難聴の一つですが、現在、騒音性難聴には有効な治療法はありません。また騒音作業による健康障害は個人差が大きいことから、各人の騒音健診結果から就業措置を講ずることは非常に大切ですが、ご相談のケースのように一般健診で代用されているような状況では、それ以降の保健指導や就業措置が不十分となる可能性があり、大変危惧されるところです。
ではどうするかですが、一般健康診断所見で聴力に異常があったものに対して、産業医として精密検査を受けるよう指示すべきではないでしょうか。労働安全衛生法第13条第3項には、「産業医は、労働者の健康を確保するため必要があるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。」と規定しているところです。
そして精密検査の結果、騒音性難聴と診断される、あるいは「疑いが強い」とされる場合は、その結果をもとに会社に対応を求めたらよいと思います。
作業環境測定の結果も良くない場合は、設備や作業方法の改善が必要です。
また、設備の改善が無理ならせめて耳栓の着用は必要ですし、その耳栓が本当に効果があるのか、耳栓チェッカーで実験する方法もあります。
耳栓チェッカーは2000Hzの音を耳栓着用時と未着用時に聴かせ、遮音性を見るものですが、通常の聴力測定器でも代用可能です。ちなみに、当支援センターでは産業保健スタッフ向けに、無料で聴力測定器を貸し出しています。
その結果、耳栓が十分着用できていないようであれば、正しい着用の方法を指導したり、併せて騒音についての共通認識を深めてみることです。そうすれば、異常があった人への二次健診についても理解が得られるのではないでしょうか。
このように騒音健診が十分行われていない背景としては、ガイドラインは行政指導であり、義務化されていないことなども影響しているものと思えます。
「騒音障害防止のためのガイドライン」は、労働省労働基準局通達(基発第546号)ですから、厳密に言えば強制力はありません。もちろん罰則規定もありません。
つまり、ガイドラインに従わなくても会社が罰せられることはありませんので、それを良いことにガイドラインを無視する会社は、現実に存在します。
しかし意味がないかというとそうではなく、仮に損害賠償訴訟などが提起されると、裁判所はガイドラインにそって判断するのが一般的です。
ガイドラインや通達などは行政機関内部のものですから、法律、政令、省令のように絶対的な強制力(法源としての規範性)を持っていませんが、法令の有力な解釈ではあることは否定できませんし、裁判所も考慮要素の一つとしてガイドラインを参考にするはずです。
また、実際の裁判でも、通達を参考にして裁判官が判決を導き出すことはよくありますし――通達を根拠に判決するかしないかは裁判官次第ですが、――法廷の場で「通達に書いてある・書いてない」という論証を行うことはよくありますので、事業者がこれを無視することは大きなリスクを背負っていることと同じです。
つまり、罰則はないものの「決まり」と思っていいでしょう。
ちなみに、騒音性難聴は退職後に労災補償請求がなされることがあります。そうした意味で在職中からの取り組み、つまり騒音予防の教育と職場環境の改善、健康管理に重点を置いて、騒音性難聴を予防することは大切だと思います。

Q3-iv-4. 紫外線・赤外線にさらされる業務の健診頻度は?
Q3-iv-4.
赤外線・紫外線にさらされる業務の特殊健康診断は、年何回実施が必要ですか。

A3-iv-4.
6ヶ月以内ごとに定期に実施することになっています。ちなみに、紫外線、赤外線の健康診断は、行政指導に基づく健康診断で、昭和31年5月18日付け基発第308号通達で示されています。健診項目は、業務歴、既往歴、自覚症状・他覚症状の有無、視力(遠・近距離)検査になっています。
紫外線、赤外線にさらされる業務とは、

  1. 電気による溶接、切断又は接着を行う業務
    (抵抗溶接作業を除く)
  2. ガスによる溶接、切断を行う作業
  3. アーク灯又は水銀アーク灯の操作を行う作業
  4. 赤外線乾燥において、赤外線の直射を受ける至近距離における作業
  5. ガラス若しくは金属を溶解又は加熱(温度摂氏700度以上に限る)する操作における炉前作業若しくは温測作業又はそれらの溶解物若しくは加熱物の運搬(平杓子で運搬するものを除く)する作業又は圧延その他の加工作業
  6. 電球等の光源製品の寿命を検査する作業
  7. 人工光源を用いてレンズ等の光学ガラス製品を検査する作業となっています。
Q3-iv-5. レーザー業務の健康診断回数は?
Q3-iv-5.
レーザー光線を取扱う業務の健康診断は、年何回行えばよいのですか。

A3-iv-5.
厚生労働省の行政通達(昭和61年1月27日・基発第39号)では、雇い入れ又は配置換えの際に視力検査に併せて、前眼部(角膜、水晶体)検査及び眼底検査を実施すれば良いことになっており、年何回というのはありません。

Q3-iv-6. 腰痛健診のチェックポイントは?
Q3-iv-6.
介護職員などの腰痛健康診断の際にチェックすべきポイントは。

A3-iv-6.
既往歴(腰痛に関する病歴及びその経過)及び業務歴の調査、自覚症状(腰痛、下肢痛、下肢筋力減退、知覚障害等)の有無の調査をしてください。また、「職場における腰痛予防対策指針」(平成6年9月6日付け基発第547号)を参照してください。

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