主任研究者 茨城産業保健推進センター
産業保健相談員 松崎 一葉
共同研究者 同 上 香取 郁雄、佐藤 親次
中島 聡美、大越 次男
同 所 長 村上 正孝
協 力 者 豊和麗病院 精神科医長 垣淵 洋一
※役職等は平成10年度当時

I.本調査の目的と構成

昨今の社会的価値の多様化、さらに産業構造の変化、経済不況などの環境変化のもとで、労働者に加わるストレスは年々増大しその反応も多様化している。本調査では茨城県内の職域におけるメンタルヘルス関連問題の実態を把握し、特に産業医・事業所・精神科専門機関の連帯の状況に焦点をあてて、労働者のメンタルヘルス対策推進のための基礎資料を得ることを目的とした。調査はそれぞれ事業所、産業医・精神科専門機関別に調査票を作成し調査を遂行した。

II.調査結果概要

1 実態と意識に関する調査(事業所)
<目的および対象と方法>
茨城県下における事業所のメンタルヘルスに対する実態を調査するとともに、人事・労務担当者の意識。精神的問題を有する労働者への産業医の関与、精神科専門機関との連携に関する状況についても検討した。
1999年1月に茨城県内の事業所から無作為に抽出した2082件(うち筑波研究機関は103件)に対し、質問票を送付した。質問票は無記名の自記式であり、表紙に今回の主旨を説明し各事業所へ郵送し、人事・総務担当者に回答を依頼し、茨城産業保健推進センター宛てに返送してもらうよう求めた。有効回答数は、788事業所(37.8%)うち筑波研究機関は58件(56.3%)であった。

<結果>

    1. 事業所の属性について

茨城県下の事業所の半数が製造業であり他の業種は教育・研究業、運輸・交通業が多いがいずれも10%に満たなかった。

    1. メンタルヘルス対策
      • 現状について
        「これまでに労働者の精神的な問題で困ったことがあるか」という問いに対しては、約4割が「はい」と答えている。その比率は規模別で一般事業所ではほとんど差がないが、筑波研究機関を見ると49名以下の事業所は50名以上の事業所に比して「はい」と回答した比率が高い。「現在精神的な問題を抱えている労働者はいるか」という問いに対しては、一般事業所では規模が大きくなるほど、「はい」と答えている比率が増加し、500名以上の規模のところで「はい」が6割を超えている。
        「精神問題で休んでいる労働者」については、若干研究機関の方が多い傾向にあった。

現実の対応について
労働者が精神科専門機関などに通おうとする時に、いかなる職種が治療機関へ対応するかという問いに関しては、「最も多い」のは「産業医」であり2割を超えていた。しかし同時に事業規模が大きくなるほど、「人事・労務担当者」が増えており、500名以上では産業医とほぼ同じ比率になっている。「次に多い」のは「人事・労務担当者」であり、全体として「人事・労務担当者」が対応している場合が多いことがわかる。「紹介するときの同意」については、「本人の同意をとる」が一番多かった。これは事業規模が大きくなるほどに、その比率は上がっている。基本的に専門機関への紹介は、本人の同意を得て行われることが多い。

職場復帰について
「職場復帰の際に、事業所側の者で治療機関に対応する業種はどんなものが多いか」という問いに対しては、「最も多い」のは「人事・労務担当者」であった。「次に多い」には、「直接の上司」であり、紹介は産業医がしてもその後の対応は人事・労務担当者や直接の上司が行うことが多いと推測される。また労働者本人に対して対応するのはどういった職種かという問いに対しては、半数近くが「人事・労務担当者」であった。
「職場復帰に対しての最終判断の権限・責任の所在」については、半数近くが「事業所の長」と回答した。「復帰に関する明確な基準」はほとんどが「ない」と回答したが、500名以上の研究機関では半数が「ある」と回答した。
「精神疾患患者に対する理解や協力」については、「まあまあある」との回答が3~5割で事業所規模が大きくなるほど理解や協力の程度が良好になると推測される。しかし、「あまりない」とする回答も約1割見られ、職場復帰後、必ずしも全てが良好な環境が構築されているわけではない点も見逃せない。
「復帰に関する診断書の扱いについて」は、本人または家族に直接もらうように言うケースが最も多かった。約1割ほどが「人事・労務担当者」であった。

産業医との連携について
産業医の復帰に関する関与の程度については、半数近くが「外部の専門機関に任せる」であり、精神疾患に関しては産業医としてはあまり積極的に関与していないことが推測された。「産業医としての精神科専門医」については、半数近くが「紹介先として確保したい」であり、常勤あるいは嘱託として確保したい、というのを大幅に上回った。「一般産業医の判断に一任する」というのも2~3割に上がった。

    1. 外部との連携について

地域産業保健センターと茨城産業保健推進センターの利用については、8割が「利用したことがない」と答えていた。
次に事業所側から見た精神専門機関、産業医、事業所相互の連携に関しては、「産業医と専門機関との連携」については「ほとんどない」と答える事業所が4割近くにのぼった。しかし研究機関は規模が大きくなるにつれ、「たいへんよい」が増え、小規模事業所における問題の存在が示唆される。
「精神専門機関と事業所との連携」については、半数近くが「ほとんどない」であった。「事業所と産業医との連携」については、「まあまあよい」との回答が多かった。

2 実態と意識に関する調査(産業医)
<目的および対象と方法>
1999年1月に茨城県内の事業所から無作為に抽出した2082件(うち筑波研究機関は103件)に対し、質問票を送付した。
茨城県の事業所に所属する産業医に対し、精神疾患を有する労働者と事業所の対応、産業医としての対応や外部機関との連携について意識調査を行った。
1999年1月に茨城県内の産業医から無作為に抽出した792名に対し質問票を送付した。質問票は無記名の自記式であり、表紙に今回の主旨を説明し、産業医自身に回答を依頼し、茨城県産業保健推進センター宛てに返送してもらうよう求めた。有効回答数は162名(20.5%)であった。
<結果>

  1. メンタルヘルス対策
    • 現状について
      「これまでに労働者の精神的な問題で困ったことがあるか」という問いに関しては、「はい」「いいえ」ともにほぼ半数ずつを占めていた。「精神問題で休んでいる労働者」については、128人の産業医から回答を得、産業医1人平均0.88人であった。「精神病院・クリニックに通院しながら働く労働者」に関しては、120人から回答があり、産業医1人平均0.38人であった。
    • 現実の対応について
      労働者が精神科専門機関などに通おうとする時に、どの職種が治療機関へ対応するかという問いに関しては「最も多い」のは産業医で約7割を占め、「次に多い」のが「人事・労務担当者」であった。
      「紹介するときの同意」については「本人の同意をとる」が6割近くあった。基本的に専門機関への紹介は、本人の同意を得て行われているようである。
    • 職場復帰について
      「職場復帰の際に、事業所側の者で治療機関に対応する業種はどんなものが多いか」という問いに関しては、「最も多い」のも「次に多い」のも「人事・労務担当者」が2~3割となっており、治療機関に紹介するのは産業医でも、その後の対応は「人事・労務担当者」に任せているのが産業医側の回答からもうかがえる。
  2. 産業医としての対応について
    「産業医として治療と職場復帰についてどの程度、関与しているか」という問いに関しては、3割が外部の専門機関にすべて「お任せ」しており、3割弱が職場復帰に積極的に関与していることがうかがわれる。「職場復帰に関して積極的に関与したが、良い結果が得られなかった経験があるか。」という問いに関しては「いいえ」と答えたのが約5割だった。しかし「はい」と答えたのが約3割ほどおり、積極的に関与するものの、必ずしも良い結果が得られるわけではないことを示している。
    「産業医としての精神科専門医」については、半数近くが「紹介先として確保したい」と答えていた。 「職場のメンタルヘルス問題で困ること」という問いに関しては、「最も困るもの」が「治療へのもっていきかたの難しさ」と「精神疾患の早期発見の難しさ」でともに約2割であった。「次に困るもの」に「職場復帰のための調整の難しさ」があげられており、精神疾患に対する2次、3次予防活動に困難を感じていることがうかがわれる。「担当の事業所で行っている、あるいは行うべきと考えること」については、3割強が「早期発見・早期治療」と答えており2割強が「職場復帰への支援と再発予防」をあげていた。一次予防に対する意識はまだまだ低いことが推測される。
  3. 外部との連携について
    地域産業保健センターと茨城産業保健推進センターの利用については8割が「利用したことがない」と答えていた。次に産業医側から見た精神科専門機関、産業医、事業所相互の連携については「産業医と精神専門機関との連携」については「まあまあよい」と答える事業所が4割近くにのぼった。
    「精神専門機関と事業所との連携」については「まあまあよい」「ほとんどない」「あまりよくない」がそれぞれ約2割であった。「事業所と産業医との連携」については「まあまあよい」というのが4割、「たいへんよい」というのが2割だった。

3 実態と意識に関する調査
<目的および対象と方法>
茨城県内の精神科専門機関に対し、職場でのメンタルヘルス問題を有する患者の状況及び事業所・産業医との連携についての状況に関して調査を行った。
1999年1月に茨城県内のすべての精神科専門機関44機関に対して、質問票を送付した。最終的に15機関(34.1%)より有効な回答を得た。方法は無記名の自記式質問票であり、表紙に今回の主旨を説明し、各専門機関へ郵送した。回答の上、茨城産業保健推進センター宛てに返送してもらうよう求めた。
<結果>
メンタルヘルス対策

  • 現状について
    「職場からの紹介で通院の患者は何人いるか」という問いには、「10人以下」と答えた治療機関が最も多かった。「事業所には内密に受診する人はいるか」という問いには「はい」「いいえ」とも半数ずつを占めていた。
  • 現実の対応について
    労働者が精神科専門機関などに通おうとする時、その時にどの職種が対応するかという問いに対しては「最も多い」のは「人事・労務担当者」であり、「次に多い」のが「保健婦」であった。労働者を治療機関に紹介する際の実際として、産業医以外の職種の人間が関わっていることが多いことがうかがわれる。
    「産業医は治療と職場復帰に関してどのくらい積極的か」という問いに対しては、専門医に「お任せ」しているケースが多いと答えるものが最も多く、「疾病性・事例性ともに熱心に取り組んでいる」という回答は無かった。
  • 職場復帰について
    「職場復帰の際に事業所側の者で治療機関に対応する職種は何か」という問いに対しては、「最も多い」ものも「次に多い」ものも「人事・労務担当者」となっており、治療機関に紹介しその後の対応も「人事・労務担当者」に任せている様子が、精神科専門機関側の回答からうかがわれる。「復職のための診断書を人事・労務担当者から求められた場合の対応」に関して、その記載内容について一連の質問を行った。各質問項目で最も多かったのは「患者と相談をするか」については「必ずする」、「産業医と相談するか」には「ほとんどしない」、「保健婦と相談するか」には「ほとんどしない」、「人事・労務担当者と相談するか」には「たいていする」ではあった。職場復帰に関して、産業医や保健婦はあまり関与しておらず、人事労務担当者が関与しているケースが多いのではないかと推測された。また、「復職に関するケースマネジメントは誰が中心になって行うのがいいか」という問いに関しては、「事業所側の産業医」という回答が多かったことから、精神科専門機関から見た場合ケースマネジメントに関して産業医が不在である印象を有しているように思われた。
  • 外部との連携について
    地域産業保健センターと茨城産業保健推進センターの利用については、ほとんどが「利用したことがない」と答えていた。次に精神科専門機関側から見た、精神科専門機関、産業医、事業所相互の連携についてたずねてみた。「産業医と精神専門機関との連携」については「あまりよくない」「ほとんどない」という答えが多く、「たいへんよい」という回答はなかった。「精神専門機関と事業所との連携」については、「まあまあよい」が多く、「事業所と産業医との連携」については、「まあまあよい」というのが多かった。専門機関から見て産業医がメンタルヘルスに関してあまり積極的でないとの印象を有していることがうかがわれた。

産業保健推進センターを第三者機関とした連携について