主任研究者 茨城産業保健推進センター 所 長 村上 正孝
共同研究者 同 上 相 談 員 皆川 憲弘、高橋 宏
大越 次男、佐藤 親次
松崎 一葉
※役職等は平成11年度当時

 

<目 的>

従業員数50人未満の小規模事業所における従業員の健康保持増進活動は、現在の日本において極めて重要であるにも関わらず、実際にはその経営基盤の脆弱さ等の理由により、産業保健サービスの提供は困難な状況にある。このような状況に対して、労働省は小規模事業場に働く労働者に対する産業保健サービスを充実させることを目的として、平成5年度より、地域産業保健センターを設け、現在6年が経過したが、小規模事業所の地域産業保健センター利用率は極めて低い。
小規模事業所においては、産業保健サービスのニーズがないのか。それともなにか障壁があり利用しにくいのか。正確な原因は未だ明かされていない。そこで、この利用率の低さの原因を探ることで、今後の地域産業保健センターの活動方針に、また今後の小規模事業所における産業保健活動の活性化に役立つ基礎資料を得ることを目的とした。

<対象と方法>

平成8年度事業所・企業統計調査(茨城県企画部統計課)より、茨城県内で事業を行っている従業員50人未満の事業所から10業種、合計1200事業所を業種ごとの構成比率を考慮して層別無作為抽出し、それらの事業所に対して自記式質問票を郵送にて配布回収した。
質問票の内容は、地域産業保健センターの認知の有無、利用歴の有無とその理由、各事業所での産業保健活動に関する問題の所在、地域産業保健センターに対する要望等である。得られた回答を統計的に処理し、その問題点とニーズを明らかにした。
さらに、県内の9ヶ所の地域産業保健センターのコーディネーターが、各地域産業保健センターに相談のあった事業所のうち2ヶ所以上を訪問し、産業保健活動への取り組み状況について、計23事業所について訪問調査票に基づき聞き取り調査を実施した。
そしてアンケート調査の結果とともに比較検討した。

<結果と考察>

回収数(回収率)は、アンケート発送総数1200部に対して269(22.4%%)であった。各従業員数の内訳は、1~4人が13.5%、5~9人が20.7%、10~29人が35.7%、30~49人が17.3%、50人以上が4.9%%、そして無回答が7.9%であった。
また事業所の業種の内訳では、製造業が18.4%%、建設業が20.7%、運輸業が7.9%、農林業が6.0%、水産業が0.8%、商業が15.0%、金融業が5.6%、教育・研究が7.9%、保健が7.5%、接客娯楽業が4.9%、そして無回答が5.3%であった。以上の属性をふまえた上でのアンケートの主な結果は以下の通りである。
地域産業保健センターの認知度は、34.7%であったが、利用したことがあると回答した事業所は9.7%であった。「地域産業保健センターを利用したという話を聞いたことがある」事業主は、13.4%であった。
以上から、地域産業保健センターの認知度はまずまずであるが利用状況は極めて低い状況が確認された。この結果に関して、事業主の産業保健活動全般についての意識に関する他の質問項目を考慮して、多重ロジスティック解析を施行し、以下(表1・表2)のような結論が得られた。 
 

表1 健診実施の有無と各関連要因
-多重ロジスティック解析結果- *P<0.01

表2 今後のセンターの利用希望と各関連要因
-多重ロジスティク解析結果- *P<0.01

時間的・経済的余裕、法律の知識の有無、さらに事業主の産業保健活動への理念が、事業主が積極的な産業保健活動を行うための重要な要因である。
今後地域産業保健センターが活性化されるには、センターの存在や活動内容の広報のみならず、まず事業主に対する産業保健活動の有用性と必要性に関して啓発活動を推進していくことが重要である。つまり、事業主の産業保健活動に対するインセンティブを誘導し、事業主側のニーズを積極的に掘り起こすことを進めなければならない。
その具体的な方策に関しては、実際の訪問聞き取り調査によって、いくつかの示唆を得、カテゴリー化して検討した(表3)。そのコメントの分析の結果は以下の通りである。
大きな事故をきっかけにして事業主の意識は変容した。
経営トップの意識の変容が事業所全体に大きな影響を及ぼす。
産業保健活動の実績により、従業員との信頼関係が大きく向上する効果を実感している事業主が多い。
従って、今後は従来型の広報普及活動にとどまらず、これらの観点を強調して事業主に対する啓発活動を積極的に推進していく、いわゆるプッシュ型の情報発信によって、地域産業保健センターの活性化が図れるのではないかと推測される。そのためにインターネットの有効利用などの具体的方策を継続して検討していきたい。

表3 事業所での産業保健活動への取り組み状況について
-聞き取り調査結果-

調査研究