平成11年度・地場産業である石材業における粉じん作業に関する実態調査
主任研究者 茨城産業保健推進センター 産業保健相談員 木村 菊二
共同研究者 同 上 所 長 村上 正孝
同 上 副 所 長 梶山 雄史
1、はじめに
昨年度に続いて茨城県西部地域の地場産業である石材業の石材加工場における粉じんの実態調査を行い、作業中に作業者が曝露する粉じん濃度と工学的対策及び呼吸用保護具の使用状況などについて資料を得た。これらの資料について検討を加え、じん肺の発生を防止するための方策について考察を行った。
2、調査の対象及び方法
調査は、昨年度の調査と同様に、稲田、真壁及び羽黒の石材組合に加入している事業所を対象に、
- 粉じん濃度及び局所排気装置
- 作業者が着用していた防じんマスクの性能
- 一定期間着用した防じんマスクの性能変化
について調査を実施した。
3、測定の方法及び結果
1)粉じん濃度及び局所排気装置
乾式の手持ち工具による石材加工場において、粉じん濃度の測定及び局所排気装置の性能を調べ、さらにTR個人サンプラーによって個人曝露濃度の測定を行った。測定は各組合2事業所すなわち6事業所において実施した。測定結果のうち、2,3の事業所の例を示す。
写真―1は、家屋の前面に設置する御影石を所定の大きさにドリルを用いて切断する作業である。削孔面の近くに吸じん用のフレキシブルのダクトがセットされており、発生した粉じんをほぼ完全に吸引除去していた。
写真―2は、ハンドドリルを使用した墓石のハツリ作業である。ハツリ面の近くに吸引フードが設置されており、発生した粉じんをほぼ完全に吸引除去しているように見えた。
写真―3は、同じ作業場でハングラインダーを用いて墓石の研磨作業である。この場所にも吸引フードが設置してあるが、作業者はこれを全く無視していた。
上のようにほとんどの事業所の石材加工場には吸引ダクトが設置されていたが、これを有効に使用しているところと全く無視しているところ、とがあった。
なお、これらの作業場において作業者の個人曝露濃度を測定した結果を表1に示した。
2)作業者が着用していた防じんマスクの性能
作業者が着用していた粉じんマスクをそのまま組合の事務室へ持参してもらい、マスクテスターによって捕集効率及び吸気抵抗の測定を行った。この調査に参加したのは各組合10数名、合計36名であった。測定の結果は表2に示すようである。半数以上の防じんマスクが当初の性能を保持していなかった。性能が低下していた作業者には、その場でアドバイスを行った。
3)一定期間着用した防じんマスクの性能変化
防じんマスクの正しい着用方法を指導してから、3つの石材組合あわせて65名の作業者に、1名について防じんマスクを1個、ろ過材5枚を支給した。作業者は1枚のろ過材を5日間着用してからろ過材を交換して、次のろ過材を使用するという方法で続けて5回、すなわち1名の作業者について5枚のサンプルを採取した。そのろ過材を回収して性能を測定し、またろ過材に付着した粉じん量などの測定を行った。この調査にはK-1010型とTs-74型の防じんマスクを使用した。
吸気抵抗と捕集効率の測定結果を図1に示した。
一般的にろ過材に粉じんが付着すれば、目詰まり効果によって吸気抵抗、捕集効率ともに上昇するものと考えられているが、測定の結果では吸気抵抗は上がって捕集効率は下がるものが認められた。
次に粉じんが付着しているろ過材の質量と粉じんが付着する前のろ過材の質量との差を付着粉じん量としてその値を求め、図2に示した。個人曝露濃度の測定結果(T粉じん濃度)と作業の強度がRMR3程度と仮定すれば、曝露濃度と5日間に付着する粉じん量とは、ほぼ一致すると見てよいであろう。
次に付着した粉じんを除去する前後にろ過材を秤量して付着した粉じん量を求めた。粉じん量と吸気抵抗との関係を図3に示した。
なお、ろ過材に付着した粉じんを除去後の吸気抵抗はかなり低下し、捕集効率の値には大きな相違は認められなかった。