主任研究者 茨城産業保健推進センター 産業保健相談員
松崎 一葉
共同研究者 久保田 芳晴*1,島田 理*1,笹原 信一朗*1,2
服部 訓典*2,立川 秀樹*2,吉野 聡*2
*1茨城産業保健推進センター 産業保健相談員
*2筑波大学大学院人間総合科学研究科
※役職等は平成15年度当時

<目 的>

近年、長引く不況の中で企業内でのメンタル不全者の増加が社会問題となってきている。また、リストラクチャリング等が誘因となり個々の仕事量や仕事への困難感も増加していることを鑑みると、今後もメンタル不全者の増加に歯止めがかからない状況が推測される。企業としても人員を減らしながらも、収益を上げなくてはならないという現状と、企業における安全配慮義務が重要視されてきている現状の矛盾した状況で、メンタルヘルス不全者をいかに発生させないかということが企業課題となってきている。
その様な状況下で企業における労働上の職業性ストレス(job stress)を正しく測定し、その結果をフィードバックする対策が普及してきている。このような職業性ストレスの研究は、その定量化に焦点が当てられてきたが、ストレッサーとしての時間や労働量などの客観的量的要素が同一でも、ストレス経験の認知方法などの主観的質的要素の影響を受けることが、依然問題として残っている。
近年この問題に対して、健康生成説の中核概念である首尾一貫感覚(Sense of Coherence: SOC)が、このストレス認知様式に大きく影響している事が検討され始めた。そこで、我々は職業性ストレスの各項目とSOCとの関連性について調査検討したうえで、職場での対策を検討し、地域産業保健センターでのメンタルヘルス相談に対する効果的支援対策を考案することを目的に、職域における横断調査を実施した。

<対象と方法>

2003年に茨城県内の某民間企業の常勤職員314名を対象に、自記式質問票を各職場で配布、記名にて回収した。調査内容は、勤務状況、自分の生活や環境の状況、家族の状況、日常生活や仕事上のストレスについて(SOC、BSJS、厚生労働省職業性ストレス簡易調査票の一部)である。

<結果と考察>

(1)メンタルヘルス指針に示される項目に関するヒアリングを管理職(43名)に対し実施。
(2)自記式質問票を各職場で配布、記名にて回収。294名より回答(回収率93.6%)を得た。
その中で、職業性ストレス要因以外の要因(私生活上のストレス要因)によるバイアスを排除するため、男性・既婚・子供有り・家族機能良好(FACES-iiiバランス群)・生活習慣良好(HPI4点以上)の5条件を満たす71名について解析を行った。
(1)と(2)の結果をもとにメンタルヘルス問題の所在が、職場ストレスにあるのか? ストレス対処能力にあるのか?について構造的な解析を実施した。

簡易職業性ストレス質問紙の結果より、量的負荷は実際の客観的数値である勤務時間と有意な相関を示し(図1)、質的負荷は首尾一貫感覚(SOC)と有意な相関を示した(図2)。

図1

図2

また、SOCが高値の場合、緩和要因の各項目得点が有意に高値を示した(表1)。

表1

これらより、BSJSの得点は客観的な負荷量と相関する項目と、本人の認知様式によるSOC得点と相関する項目が存在することが示唆された。また、BSJSによるストレス増強要因各項目の値と実際の心身のストレス反応を示す得点に有意な相関が認められた(表2)。

表2

以上の調査結果を中心に、管理者レベルに対してストレス構造についての説明を実施して討議を行い、職場環境善の可能性について具体案を探った。同時に、社員のストレス耐性を高めるための研修会開催の意義について確認した。このことにより、管理者レベルにおける、メンタルヘルス問題取り組みへのモチベーションが高まり、意識の統一が図られた。
また、管理者・一般社員別に、評価結果のフィードバック研修会を実施して、「気づき」を促すことに成功した。さらに、具体的なストレス解消方法についての実践学習を行って、ストレス解消リソースの充実が図られた。
以上の一連の活動を通し、メンタルヘルス上の問題点に対するマニュアルの必要性が明らかにされ、実際に問題となっている幾多のケースの共通点を抽出した。
抽出した問題点は、「メンタルヘルス不全者を早期に発見する必要性」、「メンタルヘルス不全者早期治療の重要性」、「メンタルヘルス不全者の職場復帰におけるポイント」、「メンタルヘルス不全者の再発予防のポイント」の4項目に分類され、各問題点に対するQ&A方式の対応マニュアルを作成した。

研究成果:「中・小規模事業場メンタルヘルス対策マニュアル」

調査研究