平成20年度・小規模事業場における主体的産業保健活動支援方法のシステム化と実践検証
主任研究者
茨城産業保健推進センター相談員 池田智子
共同研究者
茨城産業保健推進センター所長 小林敏郎
河島美枝子,武田繁夫,伊藤進一,和田弘
倉持勝男,大西慶造,根来健造,北川玲,奥田恭子
高嶋靖子,津島廣美,松井亜樹,武澤千尋
1.はじめに
これまで、小規模事業場の当事者主体による産業保健活動の有効性が提唱され、ツールが開発されてきた。しかし、事業場の活動の効果的支援方法については、十分な知見が得られてこなかった。本研究では、保健師と地域産業保健センターのコーディネーターの協働による事業場の主体的保健活動支援方法を開発するために、介入研究を通して支援過程を分析した。事業場の反応に加えて、研究者(支援者)自身の変化も分析対象とした(アクション・リサーチ)。
2.方法
1・介入活動
I県地域産業保健センター全9ヵ所のうち協力の得られた6ヵ所のコーディネーター6名と、地域産業保健センター嘱託保健師及び茨城産業保健推進センター相談員保健師、大学院生保健師ら計5名が、平成20年8~12月にI県内の小規模事業場26ヵ所へ依頼をし、同意と協力の得られた16ヵ所に、参加型産業保健活動を提供した。
2・記録の分析
協力依頼を含む26事業場へのアプローチの記録を分析した。
3・グループ・ディスカッション
地域産業保健センターのコーディネーターと保健師に加え、研究者、産業医を含む計18名によるグループ・ディスカッションを計5回開催し、録音データを分析した。
3.結果と考察
支援過程の各段階を図1に示した。小規模事業場は、「デスクワークや会議に不慣れ」、「経営難に伴う業務量の変動の激しさ」などそれぞれの特徴や問題を抱えている。事業場抱える問題や考え方を、共に考えるコーディネーターや保健師の姿勢が必要であることが明らかになった。研究者(支援者)と当事者(小規模事業場従業員)双方のイメージする「事業場の実態や課題」を一致させ(合意形成)、討議を通して解決策を見出していく方法が効果的であった。
保健師やコーディネーター自身の気づきや変化、さらに従業員を観察し、タイミングよく助言をするなどの行動は、従業員の士気を高め、集団凝集性を促進させていた。またコーディネーターは、事業場のニーズに合わせて社会資源を組み合わせ、サービス内容や提供方法を開発することも行い、地域産業保健センターの活動が活発化した。
このようなアウト・リーチ型活動は、対象者(事業場)に適した方法で行われるため、事業場も継続的支援を求めるようになった。健康への関心が高まると、「研究成果や他の事業場の取り組みについても知りたい。」との要望も出るようになった。また活動の達成感と共に、職場の人間関係の改善や健康的職場風土の構築という効果ももたらし、今後のスパイラルアップに向けた継続的活動も期待できるようになった。
4.結論と地域産業保健センターの活動方法に関する提言
日本の小規模事業場に参加型産業保健活動を推進していくには、地域産業保健センターによる各事業場のニーズの把握とそれに合わせた地域資源のしくみづくりが重要であることが示唆された。小規模事業場からの地域産業保健センターの利用を促進させるには、対象者に適したサービス提供を行う必要がある。そのために有効な示唆が得られたので、述べてみる。
1・ニーズの発掘
顔の見える関係づくりの中から、潜在的ニーズを掘り起こしていくことが必要である。
2・事業場の「気づき」と「主体性」の促進
事業場が自ら気づくように支援し、それを意識付けることによって初めて、事業場の取り組み姿勢が高まってくることも明らかになった。事業場が主体的に保健活動を考案し、実施して行けるよう支援することが効果的である。また、共に評価し達成感を高め、次の課題に取り組めるような継続的支援も重要である。
3・サービス内容と提供方法の開発
事業場が、気づいた課題に対して対策をとりたいと考えても、どのようなサービスをどのようにして利用すれば良いのかわからないために滞ってしまう場合もあった。事業場のニーズに合うサービス内容と提供方法を、新たに地域資源をコーディネートしながら開発していくことも求められていた。地域資源の有効活用は、ひとつひとつの事例を通して少しずつネットワーク化していくことから始まると考えられる。
4・保健師の活用
双方向コミュニケーションを基本とするアプローチの特徴や、集団凝集性・主体性を促進する技術、職場環境、人間関係、精神的・身体的問題等、扱える範囲が広いこと等から、事業場からも保健師の活用に期待が寄せられた。
【図1】支援過程の分析
〈図の解説〉1・事業場担当者が受け入れる
コーディネーター ⇒ 事業場担当者 信頼関係構築ときめ細かい連絡
コーディネーター ⇔ 保健師 コーディネーターからの情報に基づく準備
2・従業員が受け入れる
保健師 ⇒ 従業員 緊張緩和,メリットの説明と意見交換
コーディネーター ⇒ 保健師 キーパーソンや人間関係を把握しながら援助
3・基盤調査を実施
コーディネーター&保健師 ⇒ 従業員 スムースに進むように観察と援助
4・理解を確認し合う
保健師 ⇔ 従業員 合意形成に向けて説明と意見交換
コーディネーター ⇒ 保健師 従業員の表情を観察しながら補足的に援助
5・意見を出し合う
保健師 ⇒ 従業員 進行を観察しながら適切な援助
コーディネーター ⇒ 従業員 発言を促すような援助
6・アセスメントする
コーディネーター&保健師 ⇔ 従業員 職場視察による情報共有とアセスメント
7・テーマを決める
保健師 ⇒ 従業員 事業場全体で取り組むべき問題の抽出や優先順位決定への援助
コーディネーター ⇒ 保健師 時間管理・進行管理
8・目標を決める
保健師 ⇒ 従業員 主体的決定への工夫と支援
9・実施する
コーディネーター ⇒ 従業員 連絡・進行状況の確認と助言
保健師&コーディネーター ⇒ 従業員 サービス提供
10・評価と新たな課題を確認する
コーディネーター&保健師 ⇔ 従業員 共に活動評価,達成感・成功感の共有
11・今後の活動内容を検討する
コーディネーター&保健師 ⇔ 従業員 今後の継続的支援の確認
謝辞 長引く不況による厳しい状況下において、本研究の保健活動に前向きに取り組んでくださった全ての事業場に、深く敬意を表すると共に心より感謝申し上げます。 また、快く頻繁な連絡や訪問を実施してくださった共同研究者および研究協力者、その他全ての関係者にも心より御礼申し上げます。