主任研究者 茨城産業保健推進センター 産業保健相談員 木村 菊二
共同研究者 同 上 所 長 村上 正孝
同 上 副 所 長 関 眞人
1、まえがき
有機溶剤を用いた吹き付け塗装作業場において、有機溶剤蒸気の作業環境中の濃度、個人曝露濃度及び作業者が着用した防毒マスク吸収缶の破過を推定する手法に関する調査を行った。
2、調査の方法
調査の対象は建設車輌等を製造している会社の3つの作業場において3日間連続して有機溶剤蒸気の作業環境濃度、個人曝露濃度の測定を行い、また、作業者が着用していた防毒マスクに関する調査を行なった。
防毒マスクに関する調査は次のようである。
1名の作業者に防毒マスク1個、吸収缶5個を支給、吸収缶は1個づつ密閉ケースに入れて保管、1個の吸収缶は原則として5日連続して着用(破過を感じたら交換する)毎日着用後に吸収缶を秤量して記録、支給した5個の吸収缶は連続して着用する。
着用したいくつかの吸収缶について、使用していたのと同じシンナーの蒸気を吸収缶が破過するまで通気し(可燃性ガス測定器によりトルエン換算30ppmを破過とした)、破過時点における吸収缶の質量増加を求めた。
さらに、吸収缶のガス吸着能力に対する相対湿度、ガス濃度の影響、また、低沸点の溶剤が含まれている場合の吸着能力について検討を行った。
3、測定の結果及び考察
1)単位作業場所の測定結果は、測定を行った20の単位作業場所のうち、第2管理区分が2つ、そのほかはすべて第1管理区分と測定された。
2)個人曝露濃度は、すべて許容濃度以下であった。
3)作業による吸収缶の質量増加
吸収缶の質量増加測定結果のうち2例を図1、2に示した。両者とも毎日同様の作業を行っている。
作業者が曝露状況から判断して1日で交換したときもあり、また、5日間使用したときもある。

○図1:吸収缶の質量増加 ショット 下塗り SM

○図2:吸収缶の質量増加 ショット 上塗り SM
4)吸収缶の破過時点における質量増加
作業者が着用した吸収缶に作業で使用していたのと同じシンナーの蒸気を破過するまで通気して、破過した時点の吸収缶の質量を求めた。その結果を図3に示した。作業時に増加した質量とは関係なく、破過時点の吸収缶の質量増加は18グラム前後となっている。
また、新品の吸収缶にトルエンを破過するまで吸着させ、また作業で着用した吸収缶にシンナーを破過するまで吸着させて、吸収缶の質量を秤量によって求め、さらに吸収缶の活性炭に吸着されたトルエンあるいはシンナーをガスクロマトグラブによって求めた。

○図3:作業による質量増加と破過までの付加量
表1:吸収缶の秤量による質量とガスクロによって分析した質量との関係
(破過するまで吸着させて秤量及び分析を行った)

ガスクロでは、トルエン、キシレン、酢酸プチルなどを測定
シンナーには高沸点の物質が多数含まれているが、成分は不明
蒸気の濃度:トルエン換算300ppm及び1000ppm、相対濃度:50%及び80%、試験溶剤:低沸点の溶剤を含まず及び低沸点の溶剤含むの2種類とした。
吸収缶を通過する前後のガス濃度の測定には炭化水素計を用いて連続測定を行い、トルエン換算で30ppmを破過としてその時点の質量を測定した。なお、ガス成分の測定にはガスクロマトグラフを用いた。測定の結果を表2に示した。
表2:シンナーの成分の違いによる破過時間の相違

表2
Vトップシンナーでは、約20グラム前後の質量増加で破過が認められ、質量は湿度が50%に比べて80%のほうがやや大きい値を示し、破過時間は80%のほうがやや短くなっている。これに対して、SPラッカーでは、シンナーの濃度1000ppmと300ppmでは破過時間の値に、また破過時点における質量増加の値にも大きな相違が認められ、また、湿度の違いによっても相違が認められる。
300ppmでは湿度50%と80%では破過時間に大きな違いが認められ、80%では破過時間が短いのに吸収缶の質量の増加は大きくなっている。この相違は湿度の違いによるものと考えられる。
以上の結果から、メタノール、酢酸エチルのような低沸点の溶剤が若干(10数%以下)含まれていても環境濃度が著しく高くなければ(例えば300ppm程度以下)その作業で使用する用材を用いて破過時点における質量を予め求めておけば、吸収缶の質量増加から破過を推定することが可能であると考えられる。
4、吸収缶の保存方法
使用した吸収缶は環境の湿度の影響を受けて質量が増加することがあるのでタッパーに入れて保存すると良い。なお、防毒マスクの選択に際しては、防毒マスクの面体が着用者の顔面に対して密着性の良いものを選択し、着用に際しては、しめひもの位置やしめる強さなどを適正に着用することが肝要である。
調査研究
- 「平成31年度・茨城県 成人期の発達障害リソースマップ」の作成
- 平成29年度・騒音性難聴防止のための「よくある質問」回答集の作成
- 平成24年度・心の健康問題への復職支援に関する実態調査-人事労務担当者の実務における課題について-
- 平成23年度・産業医-精神科医の円滑な連携を目指した実践的研究
- 平成22年度・小規模事業場における主体的産業保健活動の定着化と水平展開の支援方略 (福岡産業保健推進センターとの共同研究)
- 平成22年度・職場復帰支援システムの構築に関する研究 -労使双方にメリットをもたらす休職制度の検討-
- 平成21年度・小規模事業場における主体的産業保健活動 スパイラルアップのための継続的支援方法と効果検証
- 平成20年度・小規模事業場における主体的産業保健活動支援方法のシステム化と実践検証
- 平成19年度・『「うつ病」以外の精神疾患にも対応した職場復帰マネジメント手法の確立に関する調査・研究
- 平成18年度・『ラインケア支援の方策マニュアル』を用いた管理職教育とその効果に関する実践研究
- 平成18年度・『ラインケア支援の方策マニュアル』を用いた管理職教育とその効果に関する実践研究
- 平成17年度 ・メンタルヘルス対策のラインケア実施における問題点の抽出とソリューションのための実地研究
- 平成16年度・地域産業保健センターでのメンタルヘルス相談に対する効果的支援に関する実践的研究
- 平成15年度・地域産業保健センターでのメンタルヘルス 相談に対する効果的支援に関する実践的研究
- 平成15年度・研究成果 中・小規模事業場メンタルヘルス対策マニュアル
- 平成14年度・小規模事業場の産業保健活動活性化に関する調査研究
- 平成14年度・電気溶接ヒュームの曝露評価と個人防護に関する調査研究
- 平成13年度・ITを活用した小規模事業所の産業保健活動支援モデルの試験的構築
- 平成13年度・有機溶剤曝露の評価と個人防護に関する調査研究
- 平成12年度・小規模事業場における産保サービスのあり方
- 平成12年度・有機溶剤曝露の評価と個人防護に関する調査研究
- 平成11年度・地場産業である石材業における粉じん作業に関する実態調査
- 平成11年度・従業員50人未満の小規模事業場における産業保健サービスのあり方に関する研究
- 平成10年度・『地場産業である石材業における粉じん作業に関する実態調査』
- 平成10年度・『茨城県内の職域におけるメンタルヘルス問題の実態調査』